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2021年02月05日
日本学術会議の会員任命拒否を撤回し,任命拒否された 候補者の速やかな任命を求める会長声明
1 菅義偉内閣総理大臣(以下「内閣総理大臣」という。)は,2020年10月1日から始める日本学術会議の会員について,会議からの105 名の推薦に対し,6名を任命から除外した(以下「本件任命拒否」という。)。
本件任命拒否は,以下に述べるとおり,学問の自由(憲法第23条)に対する脅威となるものであるから,内閣総理大臣に対して,本件任命拒否を撤回し,任命拒否された候補者を速やかに任命するよう求める。
2 日本学術会議は,1948 年「科学が文化国家の基礎であるとの確信に立って, 科学者の総意の下に」,「わが国の平和的復興,人類社会の福祉に貢献し,世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命」として設立された(日本学術会議法前文)。日本学術会議が設立された背景には,科学を軍事目的の非人道的な研究に向かわせた戦前の学術体制への反省がある。日本学術会議は「わが国における科学者の内外に対する代表機関」(同法 2 条)であり,科学に関する重要事項を審議し,その実現を図ること等の職務を「独立して」行い(同法3 条),科学の振興,技術の発達,科学研究者の養成,科学を行政に反映させる方策等につき政府に対して勧告する権限を有している(同法5 条)。
日本学術会議に政府からの職務の独立性と,政府に対する勧告権限が認められたのは,学問の神髄である真理の探求には自立性と批判的精神が不可欠だからであり,明治憲法時代に,1933年の滝川事件や1935年の天皇機関説事件などのように,学問の自由ないしは学説の内容が,直接に国家権力によって侵害された歴史を踏まえて,日本国憲法上特に規定された学問の自由と密接に結びつくものだからである。
3 日本学術会議が,政府に対する勧告等の職務を「独立して」行うために,その会員についても,学術会議が「優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し」(同法17 条),学術会議の「推薦に基づいて,内閣総理大臣が任命する」(同法 7 条)とされている。学問の自由(憲法第23条)を保障する趣旨から,この内閣総理大臣の任命は,同会議の推薦に「基づいて」行われる形式的な任命行為と解するのが相当である。
4 このことは,日本学術会議の会員の推薦制度が導入された 1983年の国会審議において,当時の中曽根康弘内閣総理大臣が「独立性を重んじていくという政府の態度はいささかも変わるものではございません。学問の自由ということは憲法でも保障しておるところでございまして,特に日本学術会議法にはそういう独立性を保障しておる条文もあるわけでございまして,そういう点については今後政府も特に留意してまいるつもりでございます。」「学会やらあるいは学術集団から推薦に基づいて行われるので,政府が行うのは形式的任命にすぎません。したがって,実態は各学会なり学術集団が推薦権を握っているようなもので,政府の行為は形式的行為であるとお考えくだされば,学問の自由独立というものはあくまで保障されるものと考えております。」と答弁していたことからも明らかである。
5 内閣総理大臣は,本件任命拒否について「総合,俯瞰的活動を確保する観点」などと説明するにとどまり,任命拒否の具体的理由を明らかにしていないが,本件任命拒否は,少なくとも,任命を拒否した6名の会員候補者の研究領域ないし研究成果が,日本学術会議会員として「優れた研究又は業績がある科学者」に該当しないとの判断を内閣総理大臣が示したものと受け取られかねない。
具体的な理由を明らかにしないまま日本学術会議による推薦に基づく任命を拒否すること自体,政府に批判的な学術研究活動に対する萎縮効果をもたらしかねないものであり,「学問の自由」に対する脅威となるものである。
6 以上のとおり,本件任命拒否は学問の自由に対する脅威となるものであるから,基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の団体として,当会は,これを看過することはできない。
よって当会は,内閣総理大臣に対して,本件任命拒否を撤回し,任命拒否された候補者を速やかに任命するよう求める。
2021年(令和3年)2月4日
三重弁護士会
会長 中 西 正 洋