「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に対する会長声明

三重弁護士会 >  総会決議・会長声明

2020年11月12日

「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に対する会長声明

 

 当会は、「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」(法務省の「出入国管理政策懇談会」の下に設置された「収容・送還に関する専門部会」が、2020年6月19日に公表し、同年7月14日に法務大臣に提出したもの。以下「本提言」という。)に対して、以下、声明を発する。

 本提言では、2019年6月に大村入国管理センターで起きた長期被収容者の餓死事件を契機として、昨今の、出入国管理行政における、外国人の人権上の諸問題、具体的には収容の長期化や収容者の健康悪化に対して、その解決を図ろうと議論を重ねている点で、評価できる点が全くないとまではいえない。

 しかし、この提言には、見逃すことのできない点が、次のとおり3つあり、これらに強く反対する。

 1つ目に、退去強制令書の発付を受けた者が本邦から退去しない場合の刑事罰についてである。すなわち、退去強制令書の発付を受けた者でも、その後、司法手続きで、難民認定や退去命令取消しの判断が下されたりする場合も、これまでに相当数存在している。にもかかわらず、刑事罰を下すのであれば、そのような場合の外国人まで刑罰で威嚇することになり、裁判を受ける権利等を侵害するおそれがある。また、退去強制令書の発付を受けた者を支援する者(弁護士も含まれうる)が、本罰則の共犯ともなりかねない。

 2つ目に、現行の、難民認定の申請者を送還停止すること(出入国管理及び難民認定法第61条の2の6)に例外を設けることについてである。この現行の規定は、国際法上のノン・ルフールマン原則(迫害の危険の及ぶ地域への送還禁止)を反映させている。それにもかかわらず、例外を設けると、審査結果が出る前の送還により、難民認定手続を形骸化されかねず、上記の国際法上の原則にも反する。日本における難民認定の認定率は、先進諸国の中で際立って低いと指摘されている。まず、改めるべきは、難民認定手続きであり、たやすく法の例外を設けるべきではない。

 3つ目に、仮放免等された者が逃亡等した場合の刑事罰についてである。現在でも、仮放免者は、当局への定期的な出頭を求められている。また、逃亡した場合には保証金の没取がされている。このような制度に加えて、さらに刑事罰を規定することは、刑事法上の保釈において、逃亡しても、刑罰がないこととのバランスも欠いている。また、仮放免された者を支援する者(弁護士も含まれうる)が、本罰則の共犯ともなりかねないのは、退去強制令書の発付を受けた者を支援する場合と同様である。

 なお、当会の存在する三重県では、県内の外国人住民数が過去最高を更新した(約5万6000人。2019年末)。また、外国人の人口に対する比率も2018年に2.78%で全国4位であり、2019年には3.04%と過去最高となっている。三重県及び各自治体でも、こうした現実を踏まえ、外国人との共生やダイバーシティに向けた取り組みがされている。外国にルーツを持つ人たちも、日本国籍者と全く同じく「人」として扱われ、人権が尊重され、擁護されなければならない。これは、「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」とした日本国憲法からも明らかである。「送還忌避・長期収容問題」も、こうした視座からの解決が不可欠である。

 以上のとおり、当会は、本提言の見逃すことのできない問題点である上記3点を内容とする法改正に強く反対する。

 

   令和2年(2020年)11月11日

 

                        三重弁護士会

                         会長 中 西 正 洋