死刑執行に抗議する会長声明

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2019年09月12日

死刑執行に抗議する会長声明

 令和元年8月2日、東京拘置所及び福岡拘置所において各1名(計2名)に対して死刑が執行された。死刑の執行は昨年12月以来、令和改元後初めてであり、昨年10月に就任した山下貴司法務大臣のもとでは2回目となる。平成24年12月に発足した第2次安倍内閣以降では、執行された人数は計38人となった。

 

 死刑は基本的人権の核をなす人の生命を奪う刑罰である。国家といえども人の生命を奪うことは、人権尊重の観点から許されない。
 裁判において誤判(えん罪や量刑不当)が全くないとは言い切れない。誤判であったことが後に判明したときに、すでに死刑が執行されてしまっていては、もはや取り返しがつかない。今回死刑を執行された者のうち1名は再審請求中であった。裁判の誤りを正すための裁判を受ける権利を奪ったという点でも、今回の死刑執行は許されない。

 

 国際社会は、死刑廃止に向かっている。世界の3分の2以上の国で、法律上又は事実上死刑が廃止されている。国連総会では、昨年12月17日、死刑廃止を視野に入れた死刑執行の停止を求める決議案が、史上最多の支持を得て可決された。国連の自由権規約委員会,拷問禁止委員会及び人権理事会は、日本政府に対し、死刑執行を停止し、死刑廃止を前向きに検討するべきであるとの勧告を出し続けている。

 

 日本弁護士連合会も、平成28年10月7日に福井で開催された人権擁護大会において、日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される令和2年までに死刑制度の廃止を目指すべきとする宣言を採択した。

 

 そうであるのに、日本政府は、死刑の執行を繰り返している。
 政府は、国連の勧告に対して、死刑制度を廃止しない理由の一つに国内世論を挙げている。内閣府が平成26年11月に実施した世論調査では、単純に死刑廃止の是非を問う質問に対しては、「死刑もやむを得ない」という回答が80.3%と多数を占めている。しかし、そのうち40.5%は「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」と回答しているところであり、また「仮釈放のない終身刑が導入されるならばどうか」と条件を加えた設問になると、「死刑を廃止する方がよい」との回答が全体の37.7%に上るように、国民に死刑についての情報が十分に与えられ、代替刑の導入が検討されれば、死刑廃止に前向きな世論が形成される可能性は十分ある。
 また、死刑廃止は世論だけで決めるべき問題ではなく、世界の死刑廃止国の多くも、誤判による死刑執行は決して許してはならない、犯罪者といえども生命を奪うことは人権尊重の観点から許されない等との決意から、死刑支持の世論が多数の中でも、死刑制度が廃止されるに至っている。 

 

 無論、突然に不条理な犯罪の被害にあい、大切な人を奪われた状況において、被害者のご遺族が厳罰を望むことはごく自然な心情である。しかしながら、我が国においては、犯罪被害者及び被害者ご遺族に対する精神的・経済的・社会的支援が貧弱であることも、被害者ご遺族そして国民世論における処罰感情を高める要因の一つとなっていることはあらためて指摘されなければならない。また、近代的刑事司法制度における刑罰の目的は応報ばかりではなく、国家の刑事政策としての国民の安心・安全の確保、及び国民の基本的人権の尊重の観点から検討されなければならず、死刑制度の存廃についても、かかる観点からの総合的な政策判断が必要とされている。

 

 そこで、当会は、今回の死刑執行に抗議するとともに、政府に対し、死刑の執行を直ちに停止し、死刑制度の廃止に向けての検討を開始するよう求める。

 

   令和元年(2019年)9月11日

 

                 三重弁護士会

                  会長 森 田 明 美