過労死等防止基本法の成立を求める会長声明

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2014年01月29日

過労死等防止基本法の成立を求める会長声明

 過労死が社会問題となり,「karoshi」が国際語となって20年以上が経過した。しかし,未だに労働災害に認定される過労死は存在しており,近年は精神疾患に基づく過労自殺の問題に広がりを見せるなど,一層深刻化している。

 労働基準法第32条は,その第1項において「使用者は,労働者に,休憩時間を除き1週間について40時間を超えて,労働させてはならない。」と定め,その第2項において「使用者は,1週間の各日について,労働者に,休憩時間を除き1日について8時間を超えて,労働させてはならない。」と定めている。しかし,同法36条により,使用者が労働者の過半数を代表する労働組合などと時間外・休日労働協約を結び,労働基準監督署に届け出れば何時間の残業でも可能となる。同法の規制は,過重労働に対しては十分に機能していないと言わざるを得ない。
 過重労働に対する法的規制が十分でない中,以下のとおり日本社会には依然として多くの過労死・過労自殺が存在している。
 過労死及び過労自殺による死亡者数の一端を知る方法として,厚生労働省の「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」がある。これによれば,2012年度の脳・心臓疾患に関する事案(過労死を含む)の労災補償の請求件数は842件,支給決定件数は338件であった。また,精神障害に関する事案(過労自殺を含む)の労災補償の請求件数は1257件,支給決定件数は475件と,前年度に引き続き高水準で推移している。特に精神障害に関する事案の労災補償の支給決定件数は,前年度比150件増で過去最多となっている。
 また,過労自殺による死亡者数の一端を知る方法としては,警察庁の自殺統計も挙げられる。これによれば,2012年中の自殺者は2万7858名である。その中で,原因・動機が勤務問題と特定されたケースは2472名であったが,他の原因・動機と特定されたケースの中にも過労自殺者が含まれる可能性がある。また,原因・動機が特定されなかったケースが7243名あり,この中にも過労自殺者が含まれる可能性がある。
 このような状況の中,過労死等防止基本法の制定を求める世論はますます高まっている。これまで既に,兵庫県議会,島根県議会,宮崎県議会及び和歌山県議会の4つの県議会に加えて,72の市町村議会において,同法の制定を求める意見書が採択されている。日本弁護士連合会第53回人権擁護大会においても,「強いられた死のない社会をめざし,実効性のある自殺防止対策を求める決議」が採択された。また,昨年5月17日には,国連の社会権規約委員会が,日本政府に対し,過労死防止対策の強化を求める勧告を行った。さらに,昨年6月には,過労死等防止基本法の制定を求める超党派の議員連盟も発足し,平成25年11月15日の時点で120名を超える国会議員が参加している。同法の制定を求める遺族や弁護士らが集めた署名は,平成26年1月19日の時点で,52万2306人分に達している。
 そして,平成25年12月4日,超党派の議員連盟に所属する野党議員が過労死等防止基本法案を衆議院に提出した。同法案は,その基本理念として,過労自殺を含む過労死等はあってはならないこと及び社会的・経済的な取り組みとして対策を実施すること等を定めるほか(同法案3条),政府が国会に過労死の概要や防止対策の実施状況を年次報告することを定め(同法案10条),国は,本人や家族・遺族,学識経験者で構成する過労死等防止推進協議会の意見を聴いて,防止対策推進の基本計画を作成すること(同法案11条,20条,21条),事業主は,国や自治体に協力し,労働者の健康保持に必要な措置を講じるよう努めること(同法案6条)などを内容としている。

 今後も過労死・過労自殺が多発するような劣悪な労働環境が放置され,国民の生命・身体という最も守られるべき法益が危険にさらされ続けるのであれば,労働の価値そのものが毀損され,労働意欲も低下する。しかし,過労死・過労自殺の問題に,個人や家族,個別企業の努力だけで対処するのは限界がある。それゆえ,過労自殺を含む過労死の防止は,国が基本法を制定し,国の施策の基本に位置付けられるべきものである。

 よって,当会は,過労死・過労自殺を根絶することを目的とする過労死等防止基本法の早急なる成立を強く求めるものである


2014年1月29日
三重弁護士会
会長 向山 富雄