公契約法及び公契約条例の制定を求める会長声明

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2013年09月27日

公契約法及び公契約条例の制定を求める会長声明

第1 意見の趣旨
 当会は、三重県及び三重県内の各市町に対し、公契約により民間の企業や団体が受注した業務に従事する労働者の労働条件の適性を確保することを目的とする条例(公契約条例)を制定すること、ならびに国に対し、これら趣旨を踏まえた法律(公契約法)を制定し、公契約条例の制定へ向け、各地方自治体を支援することを求める。

第2 意見の理由
1. 公契約に基づく受注企業等の労働者を取り巻く現状
 「公契約」とは、国や地方自治体が公共工事やその他公共サービスの請負や委託の際に民間事業者との間で締結する契約をいう。
 国や地方公共団体における公共工事やその他公共サービスにおいては、効率化・コスト削減の観点から、建設、運輸、清掃等さまざまな業務において公契約が用いられている。
 一方、多くの公契約では、競争入札方式が採用されているが、落札するためには、他の業者よりも少しでも低額の価格を提示して入札しなければならない。とりわけ地方自治体における発注工事では、競争入札参加企業が激増し、落札価格の低下を招いている。また、国や地方自治体の財政難の中で、公共工事以外の業務委託契約においては、入札の基準とされる予定価格は前年度の落札額を基準とされることも多く、落札するためには前年度実績をさらに下回る価格の提示が必要となっている。
 確かに、公共工事委託契約では、適正な資材費や賃金の支払いを保証し、事業の適正を担保するため、入札にあたって最低制限価格を設定する場合も多い。しかし、受注先企業・団体は、その傘下に多くの下請・孫請の企業が連なる重層下請構造となっているケースが多く、現実には、下請や孫請は受注価格が削減され、その受注企業の経営を圧迫し、その業務に直接従事する労働者に低賃金が押しつけられる状況にある。
 そのため、とりわけ、末端労働者の一人あたり労務単価が当該地域の最低賃金を下回る事態が出現したり、末端労働者に賃金が支払われないまま、受注企業が経営破綻を引き起こして、賃金支払が不能となるなどの事例も指摘されている。
 これでは、労働者の労働意欲の低下や事業の品質低下を招くおそれがあるだけでなく、低賃金によって技能や経験を有する人材の確保や育成が困難となり、事業の継続や地域経済の健全な発展が阻害されることにもなる。
 かかる事態が、これを防ぐべき立場にある国や地方自治体が公契約によって引き起こされることは許されるものではない。

2. 公契約条例制定の動き
 ILO(国際労働機関)において、1949年に94号条約として、「公契約における労働条項に関する条約」が成立した。これは、入札する企業間で人件費が競争の材料にされている現状を一掃するため、すべての入札者に最低基準を守ることを義務づけ、公契約によって、賃金や労働条件に下方圧力がかかることのないよう、公契約に基準条項を確実に盛り込ませることを目的としている。 わが国は当該条約に批准していないものの、すでに世界中で60カ国を超える国々が批准しており、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツなどでは、国レベルでの公契約規整を行っている。
 また、全国の自治体において、公契約条例の制定に向けた動きが活発化している。公契約法・公契約条例とは、公契約に基づく業務に直接又は間接的に従事する労働者の最低賃金額の遵守を契約の条件として受託事業者に対して義務づける法規をいう。すでに千葉県野田市が2009(平成21)年9月に公契約条例を全会一致で成立させたことに始まり、神奈川県川崎市、東京都多摩市、神奈川県相模原市など、公契約条例を制定する地方自治体が増加している。
 そして、2013(平成25年)1月現在で、三重県を含む全国24県議会、748市町村議会が国に対し公契約法の制定を求める意見書を採択し、三重県四日市市においても、公契約制度検討委員会が設置され、有識者によって公契約制度に関する事項について審議されているところである。

3. 公契約法・公契約条例制定の必要性
 公契約に従事する労働者の労働条件は、今や国民生活のあらゆる部面に広がっていることから、その基準が民間一般の労働条件にも広く影響する状況となっており、そのため公契約に従事する労働者の労働条件が劣悪であることは、民間一般の労働条件の基準を引き下げてしまう効果を押し及ぼすことにもつながっている。今や「官製ワーキングプア」とも呼ばれる、こうした状況を一刻も早く是正することが求められている。
 中小企業の経営を圧迫させずに労働者の適正な賃金を確保することは、一時的にはコストが上がることになるが、労働者の賃金の底上げを図り、地元中小企業の経営の安定を図ることは、地域経済を健全に発展させることになり、国民全体の生活基盤の安定につながる。
 そして、地方自治法1条の2は、住民の福祉の増進を図ることは地方公共団体の責務であると規定し、公共サービス基本法11条は、「国及び地方公共団体は、安全かつ良質な公共サービスが適性かつ確実に実施されるようにするため、公共サービスの実施に従事する者の適正な労働条件の確保その他の労働環境の整備に関し必要な施策を講ずるよう努めるものとする。」と定めている。
 かように、公契約法・公契約条例の制定は、国及び地方公共団体が上記の責務を果たすために必要な施策である。
 そして、たとえ複数の地方自治体で公契約条例が制定されても、国や公契約条例を制定していない地方自治体をも規制の対象としなければ、抜本的な解決にはならない。

4. よって、当会は、三重県及び三重県内の各市町に対し、公契約条例の制定を、国に対しては、公契約法の制定及び地方自治体の公契約条例制定に向けての支援を要請する。


2013年9月27日
三重弁護士会
会長 向山 富雄