少年法適用年齢に関する法制審議会の答申に基づく少年法改正案に反対する会長声明

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2021年02月26日

少年法適用年齢に関する法制審議会の答申に基づく少年法改正案に反対する会長声明

 

 法制審議会は、法務大臣からの諮問を受け(諮問第103号)、少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会において、少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げること及び非行少年を含む犯罪者に対する処遇に関する検討を行い、2020年10月29日、法務大臣に対して答申した(以下「本答申」という。)。

 本答申の概要は、犯罪の嫌疑のある18歳及び19歳の者について、全件家庭裁判所へ送致の上、家庭裁判所が調査をして処分を決定するという現在の少年法(以下「現行法」という。)の枠組みを維持しつつ、18歳及び19歳の者については、ぐ犯を少年法の適用対象から外し、原則逆送事件の範囲を現行法より拡大し、公判請求された場合の推知報道の禁止を解除する等というものである。

 しかしながら、本答申には以下に述べる問題がある。

 

1 少年法の適用対象であることを明確にするべきである

 本答申は、18歳及び19歳の者について、選挙権等が付与され、民法上の成人となるに至った一方で、類型的に未成熟で可塑性を有する存在である等として、18歳未満の者とも20歳以上の者とも異なる取扱いをすべきであるとしている。そして、その位置付けやその呼称については、今後の立法プロセスにおける検討に委ねるのが相当であるとして、18歳及び19歳の者が少年法の適用対象となるか否かを明確にしていない。

 しかしながら、法律の趣旨目的はそれぞれ異なるものであり、18歳及び19歳の者に選挙権等が付与され、民法上の成人とされたことは、少年法においても18歳未満の者と異なる取扱いをしなければならないことを意味するものではない。

 本答申自体、18歳及び19歳の者が未成熟で可塑性を有する存在であることを認めており、また、現行法の枠組みは少年の更生と再非行の防止に関して上手く機能しているのであるから、18歳及び19歳の者についても引き続き少年法の適用対象とするべきである。

 

2 原則逆送事件の対象を拡大するべきではない

 本答申においては、18歳及び19歳の者について、原則逆送となる事件の対象を、現行法の対象事件に加え、「短期1年以上の新自由刑に当たる罪の事件であって、その罪を犯すとき18歳又は19歳の者に係るもの。」についても対象とし、その範囲を拡大することとされている。

 その結果、例えば強盗罪のように、動機、態様、結果等の犯情の幅が極めて広い犯罪も原則逆送の対象となるため、要保護性が高く、保護観察等の枠組みの中において教育的な働きかけが必要な者に対しても、逆送された後、初犯である等の理由から執行猶予判決がくだされ、何らの教育的措置も講じられないまま終わる事案が生じ得る。現行法であれば、本人は保護処分の中において立ち直りの機会があり、再犯の防止にもつなげることができている中、本答申の枠組みによれば、そのような機会を奪うことにつながる。

 また、検察官は、家庭裁判所から送致を受けた事件について、公訴を提起しなければならないこととされているため、成人であれば起訴猶予処分となるような軽微な事案であっても、18歳及び19歳の者であれば逆送の上、公訴提起されることとなる。若年者のみが刑事処分を受けるという不均衡は問題であると言わざるを得ない。

 以上のような問題点に鑑みると、原則逆送の対象となる事件の範囲を拡大するべきではない。

 

3 ぐ犯を処分の対象とすべきである

 本答申における処分の対象者は、「罪を犯した18歳及び19歳の者」であることから、18歳及び19歳の者については「ぐ犯」が処分の対象とならない。

 少年法において、罪を犯していないにもかかわらず、ぐ犯が処分の対象とされているのは、ぐ犯少年は要保護性が高く、放置すれば将来的に犯罪に及んだり、犯罪に巻き込まれる可能性が高いため、これらの者を保護し、立ち直りを図るところにある。

 そして、ぐ犯に対する保護が必要であることは、類型的に未成熟で可塑性のある18歳及び19歳の者についても同様であり、ぐ犯を処分の対象から除外することは、それらの者を立ち直らせ、将来の犯罪を防止する機会を失うことにつながる。

 したがって、18歳及び19歳の者についても、ぐ犯を処分の対象とすべきである。

 

4 推知報道の禁止を維持するべきである

 本答申は、18歳及び19歳のとき罪を犯した者については、当該罪により公判請求された場合を除き、推知報道をしてはならないとしており、公判請求された場合には推知報道の制限が解除されることとしている。

 推知報道の制限は、少年のプライバシーを守ることにより、未成熟で発達途上の少年が、成長する中で更生していくことを実名報道等により阻害されることがないように設けられているものである。

 実名報道等により事件がマスコミやインターネット上で報道されると、SNS等により広く拡散され、その情報はインターネット上に半永久的に残ることとなる。事件から相当期間が経過した後も、事件当時の情報が残っていることが原因で、罪を犯した者が安定した仕事を確保できなくなるという問題は成人においても指摘されているところである。とりわけ20歳未満の者の犯罪は大きく報道される傾向があることからすれば、推知報道の解禁によって、18歳及び19歳のとき罪を犯した者が社会的に孤立し、安定した仕事を得ることができず、立ち直りの機会を奪われるという問題が生じ得ることは明らかである。

 したがって、公判請求された場合であっても、推知報道の禁止は維持されるべきである。

 

5 資格制限の排除を明言するべきである

 本答申は、現行法の定める資格制限の排除を明言していない。

 資格制限の排除は、社会復帰の可能性を広げ、更生をより確実にすることにあるところ、資格制限により、18歳及び19歳の者の進路が制限されることは、結果的に、罪を犯した18歳及び19歳の者が仕事を通じて社会内で立ち直る機会を狭め、更生に対する本人の意欲を削ぐ結果につながるものである。

 したがって、資格制限の排除を明確にするべきである。

 

 当会は、少年に対し、教育的、保護的、福祉的措置を講ずることにより少年の更生を促し、再非行の防止につなげている現行法が有効に機能しているという認識のもと、2015年7月15日に発出した「少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明」により、少年法の適用年齢の引下げへの反対を表明した。

本答申の内容は、前記の問題があり、現行法が掲げる少年の健全な育成の理念を後退させ、18歳及び19歳の者から立ち直りの機会を奪い、再犯率を増加させるといった懸念がある。

 当会は、本答申に対して反対を表明するとともに、本答申の内容に沿った少年法改正が行われることに対し強く反対する。

 

   2021年(令和3年)2月25日

 

                       三重弁護士会

                        会長 中 西 正 洋