東京高等検察庁検事長の定年延長閣議決定の撤回を求める会長声明

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2020年03月16日

東京高等検察庁検事長の定年延長閣議決定の撤回を求める会長声明

 内閣は本年1月31日に東京高等検察庁(以下,「東京高検」という。)検事長の定年を延長する閣議決定をしたが、これは検察庁法に違反し、国会の立法権を無視し、検察の独立を侵害し、三権分立の原則を蹂躙するものであるから、直ちに撤回するよう求める。

1 検察庁法違反

 検察庁法22条は検察官の定年を検事総長は65年、その他の検察官は63年と定めている。これは、定年となる誕生日が到来すれば当然に退官となる規定であり、定年延長を認めていない。これまで定年延長された検察官は一人もいない。

 ところが、内閣は、本年1月31日、同年2月7日で定年退官となる現東京高検検事長の定年を同年8月7日まで延長する閣議決定をした(以下「本閣議決定」という)。その法的根拠の説明は、検察官も一般職国家公務員であるので、国家公務員法が適用されるところ、定年延長を定めた同法81条の3第1項が適用可能であるというものである。

 しかしながら、このような解釈をする余地は全くない。

 同法81条の3第1項の定年延長規定は、同法81条の2により定年退職する一般職国家公務員に適用される規定であり、検察庁法に基づき定年退官する検察官には適用のないことは文理上明らかだからである。検察庁法32条の2もこのことを示している。検察官にはこの定年延長規定の適用がないことは、従来の政府見解でも明確にされてきた。

 よって、本閣議決定は、検察庁法に違反する。

2 立法権の侵害

 この点、内閣は法解釈を変更したと説明しているが、先に述べたとおり、国家公務員法、検察庁法をいかように解釈しても、検察官の定年を延長できるような法解釈は成り立つものではない。

 文理上明らかに無理のある内容へ法解釈を変更することは、内閣が、国会による法律改正を拒んで、自ら法律改正をすることに等しい。本閣議決定は、国会の立法権を無視するものと言え、三権分立や法律による行政にも違反する。

3 検察の独立の侵害、ひいては刑事司法制度に対する信頼の失墜

 内閣は定年延長した検事長を検事総長に任命することは可能であるとの答弁書を提出している。

 本閣議決定の目的が、ある特定の検察官を優遇するためや、当該検事長を将来、検事総長に就かせるためであったならば、検察官人事に対する内閣の恣意的介入と言わざるを得ない。

 検察官には刑事事件の捜査・起訴等の権限が付与されている。検察は行政に属するものの、その準司法的性格ゆえに、政治的勢力を含む他の権力からの独立が必要である。

 法律上、検事総長や検事長を任命するのは内閣であるが、検察の独立の必要性の前には、内閣の任命権限も一定の制約を受けるものと考える。

 これまで、歴代政権は前任の検事総長が推薦した人物を次の検事総長に任命してきた。これは歴代政権が検察の独立に配慮してきた現れである。

 もし将来、違法に定年を延長した当該検事長を、内閣が検事総長に任命することがあれば、刑事司法制度に対する国民の信頼は地に落ちるであろう。

4 結語

 当会はここにおいて、本閣議決定は、検察庁法に違反し、国会の立法権を侵害し、検察の独立を脅かし、刑事司法への国民の信頼を損ない、三権分立の原則をも蹂躙するものとして、強い抗議の意を表し、内閣が速やかに東京高検検事長の定年延長の閣議決定を撤回するよう会長声明を発する。

 

    令和2年(2020年)3月16日

 

                  三重弁護士会

                   会長 森 田 明 美