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2018年03月14日
生活保護基準のさらなる引下げに反対する会長声明
厚生労働省は,2017年12月8日に開催された第35回社会保障審議会生活保護基準部会において,2018年度から母子加算及び児童養育加算を含む生活扶助基準を引き下げる案を示した。同部会はこれを審議し,同月14日,「社会保障審議会生活保護基準部会報告書」をとりまとめた。
これを受け,内閣は,2017年12月22日,2018年10月から3回に分けて生活扶助基準を最大5%引き下げる内容を含んだ2018年度予算案を閣議決定した。厚生労働省の発表によれば,国費分で年160億円を削減する内容である。減給の対象となる世帯は全体では推計で67%であり,有子世帯では43%,母子世帯では38%に及ぶ。母子加算は月平均2万1000円から月平均1万7000円に,児童養育加算は3歳未満は月1万5000円から1万円に減額されるほか,定額支給であった学習支援費(クラブ活動費)も実費支給に切り替えられる。
2018年度予算案における基準引下げの考え方は,生活保護基準を第1・十分位層(所得階層を10に分けた下位10%の階層)の消費水準に合わせるというものである。
しかし,我が国では,そもそも生活保護基準の捕捉率(制度を利用できる資格がある人の中で生活保護制度を利用している人の割合)は15.3%から32.1%にすぎず(2010年4月9日付厚生労働省発表の「生活保護基準未満の低所得世帯の推計について」),第1・十分位層の多くは,生活保護を利用できておらず,生活保護基準以下の生活を強いられているものと考えられる。とすると,この手法では,生活保護基準に満たない貧困生活と生活保護基準を比較することになるが,そうなれば前者よりも後者が高いとの結論が出続けることになり,結果として生活保護基準が下がり続けることにならざるを得ない。よって,この手法に合理性がないことは明らかである。
第1・十分位の単身高齢世帯の消費水準が低過ぎることについては,生活保護基準部会においても複数の委員から指摘がなされている。前記の同部会報告書も,一般低所得世帯との均衡のみで生活保護基準を捉えていると絶対的な水準を割ってしまう懸念があることに注意を促しているところである。
また,2018年度予算案における基準引下げによれば,子供のいる世帯にも大きな影響が及ぶ。これは政府が進める子供の貧困対策に逆行する。前記の同部会報告書も,子どもの健全育成のための費用が確保されないおそれがあることを指摘しており,問題である。
いうまでもなく,生活保護法は,憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を具体化するものであり,生活保護基準は最低限度の生活を保障するものでなければならない。それだけでなく,生活保護基準は,最低賃金,就学援助の給付対象基準,介護保険の保険料・利用料や障害者総合支援法による利用料の減額基準,地方税の非課税基準等の労働・教育・福祉・税制などの多様な施策の適用基準と連動している。生活保護基準の引下げは,生活保護利用世帯の生存権を直接脅かすだけでなく,生活保護を利用していない市民全般にも多大な影響を及ぼすのである。
今回のさらなる生活保護基準の引下げは,2004年からの老齢加算の段階的廃止,2013年からの生活扶助基準の削減(平均6.5%,最大10%),2015年からの住宅扶助基準・冬季加算の削減等の度重なる生活保護基準の引下げによって既に「健康で文化的な生活」を維持し得ていない生活保護利用者を更に追い詰め,市民生活全般の地盤沈下をもたらすものである。
殊に,2013年からの生活扶助基準の削減に対しては,三重県を含め,全国29都道府県の地方裁判所において,合計950名を超える原告が違憲違法であるとその取消しを求める訴訟を提起し,第一審が係属中である。その結論が出ないままに新たな大幅な引き下げを行う政府の姿勢は是認できるものではない。
当会は,2013年の生活保護基準の引下げに対して,2013年1月30日に「生活保護基準の引下げに反対する会長声明」を発したところであり,その引下げに引き続いて行われるこの度の引下げは到底容認できるものではない。
よって,当会は,さらなる生活保護基準の引下げに反対し,これを行わないよう強く求めるものである。
平成30(2018)年3月13日
三重弁護士会
会長 飯 田 聡