消費者庁・国民生活センターの地方移転に反対する会長声明

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2016年01月12日

消費者庁・国民生活センターの地方移転に反対する会長声明

1. 政府は,地方創生を重要政策として位置づけ,「まち・ひと・しごと創生本部」を内閣に設置している。その中の「政府関係機関移転に関する有識者会議」において,政府関係機関の地方移転の検討が行われ,現在,消費者庁及び国民生活センターを徳島県に移転させることが,審議事項にあがっている。消費者庁及び国民生活センターが移転した場合,消費者行政の司令塔としての役割を失うことになりかねないため,当会は,反対の意見を表明する。

2. (1) 国民生活センターは,1970(昭和45)年10月1日に設立されて以来,都道府県市区町村に設置された消費生活センターと連携をとりつつ,国民生活に関する情報の提供及び調査研究を行い,重要消費者紛争について法による解決のための手続を実施してきた。ただ,2008(平成20)年頃,パロマ工業製ガス湯沸かし器の一酸化炭素中毒事故や中国製冷凍ギョーザ中毒事件など,消費者の安全にかかわる問題が多発した。特に,消費者行政は,複数の省庁にまたがる事案への対応が遅れ,被害が深刻化することがあった。これらを契機に,消費者に直接関わる情報を一元的に集約させ,司令塔としての役割を担う機関として,2009(平成21)年9月に消費者庁が設置された。これにより,消費者庁が司令塔としての機能として,国民生活センターが情報の収集・分析等の中核的な実施機関として,消費者行政において重要な役割を担うこととなった。  
(2) 具体的には,消費者安全に関する重大事故が発生した場合,消費者庁が官邸と連絡をとり,関係大臣等を本部員とする緊急対策本部を速やかに開催し,関係省庁と連携し,事態に対応をする。消費者庁が設置されてから6年に過ぎないが,2013(平成25)年12月29日に起きた冷凍食品から農薬(マラチオン)が検出された事案では,消費者庁が司令塔としての機能を発揮した。年明け早々に内閣府特命担当大臣が直接事業者と面談のうえ,情報提供の要請を行い,かつ,関係省庁と連携し,被害の拡大防止等の対応にあたった。同年10月頃には,ホテル・レストランが提供する料理等のメニュー表示に関する偽装表示が多発した。この件でも,消費者庁が司令塔としての役割を果たし,食品表示の適正化策を早期に策定した。
 また,消費者庁は,このような緊急課題のみならず,法改正のため,国会対応もする。最近では,消費者安全法,不当景品類及び不当表示防止法の改正,消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の創設などが行われ,法案改正や制定の説明を行った。現在は,特定商取引に関する法律,割賦販売法,消費者契約法,公益通報者保護法の改正について,関係省庁と事前に協議を行い,調整をするとともに,国会議員に対して,個別に法改正や法の創設の趣旨及び内容について直接説明をしている。
(3) そして,国民生活センターにおいては、全国の消費生活相談情報を集約・分析し,一般消費者や地方自治体に情報を発信するだけでなく,消費者庁や消費者委員会や各省庁の消費者関連法制度の不備や見直しの問題提起や立法事実となる資料提供などを行うなど,消費者庁ほか関連省庁との密接な連携により,政府全体の消費者行政を推進する機能を果たすことが求められている。

3. 以上のとおり,消費者庁及び国民生活センターは,消費者行政において重要な役割を担っているところ,徳島県へ移転された場合,以下の2点が危惧される。
 第1に,日本全国の消費者問題の指揮及び遂行に支障をきたすことである。
 東京からなら,北海道から沖縄まで,概ね2時間から6時間程度で駆けつけることができる。他方,徳島からでは,所要時間が長くなるのは41都道府県にも上る。これは,交通アクセスが悪いためである。それゆえ,緊急重大事故が発生した場合,消費者庁は,司令塔として,いち早く対応することができない恐れがある。また,交通アクセスが不便であることは,法改正について丁寧な説明ができず,時代に応じた法改正が迅速に行えない可能性がある。そして,国民生活センターにおいても,日常的に,都道府県市区町村に設置された消費生活センターと連携をとれず,地域によっては消費者被害の実態把握ができないおそれがある。
 第2に,人材確保が困難である。
 消費者庁の職員は,約500名いるが,そのうち約半数は非常勤職員である。また,国民生活センターにおける相談員も多くは非常勤職員である。消費者庁消費者行政においては,豊富な経験と高度の相談スキルが求められるため,希少性が高い。それゆえ,大都市圏ではない徳島県へ移転した場合,適切な人材確保が行えない可能性が高い。このことは,現代社会が,情報ネットワークが発達しているといえども,補えない事項である。

4. よって,消費者庁及び国民生活センターの地方への移転は,消費者庁及び国民生活センターの機能を低下させ,我が国の消費者行政の機能の推進を阻害しかねないので,当会は,反対する。


2016年1月24日
三重弁護士会
会長 川端 康成