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2016年01月27日
死刑の執行に関する会長声明
2015年12月18日、東京拘置所と仙台拘置支所で死刑が執行されました。岩城光英氏が法務大臣に就任してから2ヶ月余りでの執行で、前回の死刑執行は2015年6月でしたから、それからわずか半年後の執行です。そして、2012年12月に安倍内閣が成立してからは、これで合計14名に対する死刑が執行されたことになります。
東京拘置所の件は、裁判員裁判による死刑判決の初めての執行で、しかも被告人が上訴をしなかったため、高等裁判所や最高裁判所の判断を経ることなく、裁判員裁判による判決だけにしたがって死刑が執行されたのです。死刑制度は人の生命を奪う究極の国家権力の行使ですから、死刑を執行する前提として、死刑制度に関する十分な情報や知識を国民が共有した上で、国民的な議論を尽くすべきです。ましてや、裁判員裁判制度のもと裁判官以外の者も死刑判決に関わらざるをえなくなった現代では、なおさらです。
裁判には常に誤判の危険性があり、それは死刑確定事件でも同様です。現に、4つの死刑確定事件(免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)において、その再審無罪が確定し、誤判の存在が明らかとなりました。しかしながら、これら誤判を生じさせた制度上、運用上の問題点につき、その抜本的な解決はなされていませんから、誤判に基づく死刑執行の可能性は未だ残されたままです。
また、静岡地方裁判所は、2014年3月、袴田巖氏の第二次再審請求事件について再審を開始し、死刑及び拘置の執行を停止する決定をしました。当会が存する三重県内においても、名張事件や久居事件など継続中の再審請求事件があります。これらの事件が今後仮に再審無罪となった場合、つまり、新たな誤判が明らかとなったときを慮るに、死刑の執行は可及的に慎重に行われなければならず、当面停止するほかないと考えるのです。
世界に目を向ければ、現在、死刑廃止国(事実上の廃止国を含む)は140か国であるのに対し、死刑存置国は58か国です。また、その死刑存置国においても、2014年に実際に死刑を執行した国は多くはなく、日本を含め22か国にとどまります。さらにまた、いわゆる先進国グループであるOECD(経済協力開発機構)加盟国(34か国)の中で死刑制度がある国は日本・韓国・米国の3か国だけですが、そのうち韓国は17年以上にわたって死刑の執行を停止していますし、米国の州のうち19州は死刑を廃止していますので、死刑を国家として統一して執行し続けているのは日本だけなのです。こういった状況を受け、2014年、日本は、国際人権(自由権)規約委員会から、死刑の廃止について十分に考慮すること等を勧告されました。
以上の次第で、当会は、今回の死刑執行を強く抗議するとともに、あらためて、一旦すべての死刑判決確定事件の死刑の執行を停止して、死刑制度に関する情報や知識が広く国民に公開され、国民がそれらを共有した上で死刑制度に関する国民的な議論が行われるよう求めます。
2016年1月27日
三重弁護士会
会長 川端 康成