少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明

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2015年01月19日

少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明

 選挙権年齢を18歳以上に引き下げる改正公職選挙法が今国会で成立した。同法の附則は,少年法の適用年齢引下げの検討を求めている。自由民主党は,「成年年齢に関する特命委員会」を設置し,少年法の適用年齢の引下げについても検討を始めた。

 選挙権年齢の引下げは,将来を担う若者が社会保障制度など国のあり方に関心を持ち,その議論に参加することを促すという面で意義がある。しかしながら,法律の趣旨目的はそれぞれ異なるものであり,選挙権年齢の引下げに合わせて少年法の適用年齢も引き下げるといった性急な議論は避けなければならない。慎重な検討が求められる。

 少年法の適用年齢引下げに賛成の立場からは,「選挙権年齢引下げにより権利を得るのであるから,相応の義務や責任を負うべきである」という議論や,「少年事件の凶悪化に対処すべきである」との意見が聞かれる。

 しかしながら,現行少年法において,少年が相応の義務や責任を負っていないという議論は理由がないものである。少年法のもとにおいては,少年事件は全件家庭裁判所へ送致され,少年鑑別所での資質鑑別や家庭裁判所調査官の社会調査に基づいて,少年の要保護性に応じた保護処分が下される。保護処分の中には,少年院送致による矯正教育も含まれる。成人であれば不起訴処分で終わるような軽微な事案であっても,少年の場合には少年院送致となる可能性があり,必ずしも保護処分が軽い処分であるわけではない。また,家庭裁判所が刑事処分相当と判断した事件は,検察官へ送致され(逆送),少年であっても成人と同様の刑事処分を受けることとなる。特に,犯行時16歳以上の少年が故意の犯罪行為により被害者を死亡させるといった重大事件については原則として逆送され,公開の法廷で裁判員裁判を受けるのであり,犯行時18歳以上の少年には死刑判決を下すこともできる。少年が特に保護され軽い処分を受けているという事実は存在しないのである。

 少年事件の凶悪化の議論については,少年非行の件数は,検挙人数,少年の人口比率ともに減少しており,少年による殺人,強盗,放火,強姦といったいわゆる凶悪犯罪についても,ピーク時からは激減し,現在は横ばい又は減少のまま推移している。したがって,少年事件が凶悪化しているという事実は存在しない。

 他方,少年法の適用年齢の引下げは,18歳,19歳の少年から一律に少年法における保護処分を受ける機会を奪うことを意味する。少年法は,少年に対して,教育的,保護的,福祉的措置を講ずることによって,少年の更生を促し,再非行の防止につなげている。既述のとおり,凶悪事件も含め,少年非行の件数が減少していることは,まさに少年法が上手く機能していることの現れである。18歳,19歳の少年を少年法の対象から外せば,少年事件の中で大きな割合を占める万引き等,比較的軽微な犯罪を行った少年の多くは,成人と同じ刑事手続の中で不起訴処分により何らの処分を受けないか,罰金等の軽い処分を受けるにとどまり,教育的,保護的,福祉的措置を受けられないまま終わることとなる。不起訴処分や罰金等の軽い処分で終わってしまった少年は,少年鑑別所での指導や家庭裁判所調査官の働きかけを受けることができず,更生する機会を失うことになる。18歳,19歳の少年の再犯率の増加等が懸念される。

 旧少年法においては適用年齢が18歳未満であったのを,現行少年法において20歳未満に引き上げたのは,未熟な年齢の少年には刑罰によって対処するのではなく,教育的措置により立ち直りの機会を与えるためであったはずである。選挙権を得る少年は相応の義務や責任を負うべきであるとの理由や,少年事件の凶悪化へ対処しなければならないとの理由から,少年法の適用年齢の引下げを行うべきであるという意見は,根拠を欠いているだけでなく,少年法の本来の目的を忘れ,時代に逆行するものであるといえる。

 以上のとおり,少年法の適用年齢の引下げには強く反対する。


2015年7月15日
三重弁護士会
会長 川端 康成