通信傍受法の対象犯罪拡大や司法取引の導入などを含む、刑事訴訟法などの
改正案の閣議決定を受けて、国会での慎重審議を求める会長声明

三重弁護士会 >  総会決議・会長声明

2015年05月13日

通信傍受法の対象犯罪拡大や司法取引の導入などを含む、刑事訴訟法などの
改正案の閣議決定を受けて、国会での慎重審議を求める会長声明

 政府は、平成27年3月13日、法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」(以下「特別部会」という。)の答申案(以下「答申案」という。)を法案化した刑事訴訟法などの改正案(以下「改正案」という。)を閣議決定し、国会に提出した。
 改正案は答申案を踏襲しており、答申案と同じ問題を含むことから、当会は、特別部会で個別論点毎に審議され、指摘された問題点について、改めて国会においても慎重な審議を尽くすことを求めたい。

 すなわち、取り調べの可視化は、その対象事件を裁判員裁判対象事件と検察官独自捜査事件に限定している。また、例外事由には、「被疑者の言動により、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき」という抽象的なものがあり、例外に該当するか否かの判断を捜査官に委ねる内容になっている。

 証拠開示制度については、検察官が保管する証拠の一覧表の交付、公判前整理手続及び期日間整理手続の請求権の付与、類型証拠開示の対象拡大に止まるものである。証拠の一覧表については、警察官の保管する証拠が対象とされていない。また、検察官が「犯罪の証明又は犯罪の捜査に支障が生ずるおそれ」などがあると認めるものは、一覧表に記載しないことができるとして検察官による裁量を認めている。

 他方、通信傍受法については、制定時、日弁連は「対象犯罪が組織犯罪に限定されておらず、別件の傍受・逆探知を容認している。また、将来発生する犯罪へ捜査を広げ、令状に記載される通信される通信内容の特定が不十分である。さらに、事後救済措置にも問題があるなど憲法31条、35条の要件を満たしているとはいえない。」などと繰り返し反対した。それにも拘わらず、組織的な重大犯罪のみを対象に、また、通信事業者の立ち会いなどを要件として法制化されたという経緯がある。

 ところが、改正案は、「数人の共謀によるもの」と疑うに足りる状況があり、かつ、「あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われたもの」という要件はあるものの、傷害、詐欺、恐喝、窃盗などの犯罪にまで対象を拡大した。さらに、改正案は、特定装置(傍受した通信や傍受の経過を自動的に記録し、これを即時に暗号化する機能等を有する装置)を用いることを条件に、通信事業者の立ち会いを不要としている。これは、憲法違反の疑いのある通信傍受法の対象を拡大し、手続を簡略化することに他ならない。

 また、捜査公判協力型協議・合意制度も、引き込みの危険(逮捕勾留された者が、自らの刑事訴追を逃れたい、少しでも軽くしたいと考え、捜査機関から「恩典」をちらつかせられることにより虚偽の供述をし冤罪を生み出す危険性が高いこと)などが指摘されている。現に、去る3月5日、名古屋地方裁判所は、美濃加茂市長の収賄事件において、贈賄側の証言は信用性を否定し、市長に無罪を言い渡した。この判決は、現金授受の存否に関する判断において、現金を受領したと認めるにはなお合理的な疑いが残ると判断した後、重ねて虚偽供述の動機の可能性について検討し、贈賄側の証人について「自身の刑事事件の情状を良くするために、捜査機関、特に検察官に迎合し、少なくともその意向に沿う行動に出ようと考えることは十分にあり得るところである。」などと指摘している。

 当会は、国に対し、今後、改正案を国会で審議するにあたり、改めて、特別部会で個別論点毎に審議され、指摘された問題点に十分配慮し、慎重審議を尽くすよう強く要望する。


2015年5月13日
三重弁護士会
会長 板垣 謙太郎