労働者派遣法等の一部を改正する法律案に反対する会長声明

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2014年05月14日

労働者派遣法等の一部を改正する法律案に反対する会長声明

1. 政府は,今通常国会に,「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案」(平成26年3月11日提出)(以下,単に「法律案」という。)を上程した。
 しかし,法律案は,労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)が原則とした「常用雇用の代替防止」の考えを実質的に放棄して,派遣先において派遣労働者を永続的に利用することを可能にするものであり,労働者全体の雇用の安定と労働条件を損うものである。

2. 現行労働者派遣法では,派遣可能期間を,「派遣就業の場所ごとの同一の業務」について原則1年間と定めている。これは,雇用と使用が分離される間接雇用は労働者の地位を不安定にし,労働基準法,労働安全衛生法等に定める雇用主の責任を曖昧にするなどの弊害があることから,労働者の権利保護の観点から直接雇用が原則とされており,間接雇用の一形態である労働者派遣はあくまで直接雇用の原則の例外に過ぎない。そのため,同一の業務について継続して労働者派遣による役務の提供を受けることができる期間に制限を設けることで,派遣元を順次入れ替えること等によって長期間にわたって労働者派遣による役務の提供を受けることを防止し,派遣先において,常用労働者が派遣労働者によって置き換えられることの防止を図ったものとされている。
 これに対して,法律案では,第一に,派遣元で無期雇用されている派遣労働者(無期雇用派遣労働者)については,業務内容にかかわらず,派遣可能期間の対象から除外し,永続的に受け入れることができるものとなっている。(改正案40条の2第1項1号)
 しかし,派遣元で無期雇用されているからといって,必ずしも当該派遣労働者の雇用が安定しているとも,また労働条件が優良ともいえない。実効性ある均等待遇の確保策の導入もないままに,無期雇用派遣労働者について派遣可能期間を撤廃すれば,常用労働者が,優良な労働条件を確保されない派遣労働者に置き換えられ,常用雇用の代替を促進することになりかねない。

3. 第二に,法律案では,派遣元で有期雇用されている派遣労働者(有期雇用派遣労働者)については,派遣先は,派遣就業の場所ごとの業務について,3年を超えて継続して受け入れてはならないとしつつ,派遣先事業所の過半数で組織する労働組合(これがない場合には労働者の過半数を代表する者)から意見を聴取さえすれば,その期間を延長してさらに継続して派遣を受け入れることを可能とする仕組みとなり,何度でも延長できることとされている(改正案40条の2第3項ないし第6項)。これは,あくまで意見を聴取さえすればよいものであり,実効性のある歯止めにならず,派遣労働者の永続的な利用を可能とするものである。
 第三に,現行労働者派遣法では,派遣可能期間は原則1年間として,専門的な知識,技術又は経験を必要とする等の「政令26業務」について,例外的に3年間とする制度となっている。これは,「政令26業務」であれば,派遣先の常用雇用労働者が通常従事する業務に比べて専門性や雇用管理の在り方が異なり常用雇用の代替のおそれが少ないとの考えによるものとされている。しかし,法律案ではこの区別を撤廃しており,この点でも,常用雇用の代替防止の考えを放棄している。

4. このように,法律案では,常用雇用の代替防止の原則を実質的に放棄し,派遣労働の拡大が進められることになる一方で,派遣労働者の雇用安定措置や均等待遇措置については,配慮義務・努力義務にとどめており,実効性が確保されていない。法律案に沿った法改正がなされれば,派遣労働者の保護のための有効な策が講じられないままに,派遣労働の固定化・拡大化が進み,派遣労働者による直接雇用労働者の代替が進んでいくおそれが強い。このことは,派遣労働者は勿論,労働者全体にとっても,雇用の不安定化と待遇の低下を引き起こし,格差と貧困の問題をより深刻化させかねない。
 よって,当会は法律案に基づく改正に反対する。


2014年5月14日
三重弁護士会
会長 板垣 謙太郎