行政書士法改正に反対する会長声明

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2014年03月07日

行政書士法改正に反対する会長声明

 日本行政書士会連合会は、行政書士法を改正して、「行政書士が作成することのできる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立てについて代理すること」及び「ADR手続において代理すること」を行政書士の業務範囲とすることを求め、そのための運動を推進してきており、それを受けて行政書士法改正案が議員立法として今国会に提出される可能性がある。

 しかしながら、行政不服申立代理業務及びADR手続における代理業務を行政書士の業務範囲に加えることは、以下に述べる通り、国民の権利利益の擁護を危うくするおそれがあるので、当会は、ここに強く反対の意見を表明する。

 第一に、行政書士の主たる業務は、行政手続の円滑な実施に寄与することを主目的とし、行政庁に対する各種認可関係の書類作成・提出であり、その業務ないし職務の性質上、行政庁の違法又は不当な行政処分を是正し、国民の権利利益を擁護するための行政不服申立制度とは、本質的に相容れない
 第二に、都道府県知事による監督を受ける行政書士が、国民と行政庁が鋭く対立する行政不服申立ての代理をすることは、国民の権利利益の実現を危うくするおそれがある。行政書士のうち相当数は、行政官庁の職員の経歴を有しており、そのため、行政庁の違法又は不当な行政処分の是正を求めることに躊躇しあるいは回避しがちとなり、国民の権利利益の擁護を図れなくなることが懸念される。

 第三に、行政不服申立ての代理人を務めるに当たっては、より高度な専門性と慎重かつ適切な判断が必要不可欠であるところ、その点において行政書士の能力担保は十分とはいえない。この点につき、行政書士試験に行政不服審査法が必須科目になってはいるが、行政不服申立ての代理行為は、行政訴訟の提起や同訴訟段階での結論も十分に視野に入れて行うべきものであり、その一事をもって能力担保がなされたということは到底できない。法律事務処理の初期の段階で適正な判断を誤ると、直ちに国民の権利利益を害することにつながりかねない。初期段階において最終的な訴訟段階での結論まで見据え、迅速かつ的確に初期対応することこそが国民の権利利益に資する。行政庁の行為に対する行政不服申立ての代理行為は、行政庁側に関与していない、弁護士自治で国家機関からの独立を担保された弁護士こそが行うべきである。

 第四に、行政書士について定められている倫理綱領は、その内容において、当事者の利害や利益が鋭く対立する紛争事件の取扱いを前提にする弁護士倫理(弁護士職務基本規程)とは異なっており、行政書士において紛争事件を取り扱うだけの職業倫理が確立しているとはいえない。行政不服申立ては、国民と行政庁とが鋭く対立するのであって、このような案件を行政書士が代理行為を行うこと自体で国民の権利利益が侵害されることが懸念される。当事者対立の場面における職業倫理が確立していない行政書士に権利利益の救済を委ねることは相当でない。

 第五に、近年では入国管理及び難民認定法、生活保護法、精神保健及び精神障害者福祉法に基づく行政手続等について法律援助事業を利用するなどして、行政による違法又は不当な処分から社会的弱者を救済する実績をあげるなど、弁護士は既に行政手続業務にも代理人として相当関与しているところ、弁護士人口が毎年相当数増加していくことが見込まれ、行政不服申立ての分野にも弁護士がより一層関与していくことが確実に予想される中、行政書士法を改正して行政書士の業務範囲を拡大する必要性や立法事実は脆弱である。

 第六に、日本行政書士連合会は、行政不服申立ての代理人に併せて、ADR手続における代理権の付与をも求めているが、前述した理由に鑑みれば、当事者の利益が激しく対立するADR手続においては、なおのこと代理権を認めることはできない。


2014年3月7日
三重弁護士会
会長 向山 富雄