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2013年07月26日
憲法改正発議要件の緩和に反対する会長声明
近代憲法は、国家権力に縛りをかけ、国家権力の濫用を防止して国民の権利と自由を保障することを目的とする(立憲主義)。ここには、多年の歴史を通して国家権力による専制から自由と権利を獲得してきた人類の叡智が込められている。
日本国憲法が採用する国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義は、将来の世代にわたって永続的に受け継いでいかなければならない基本原理である。
そして、日本国憲法96条が憲法改正の発議に国会の各議院の総議員の3分の2以上の賛成を必要とする特別多数決を要求しているのは、この憲法の基本原理が時々の国家権力によって容易に変えられないようにするための制度的保障である。この憲法改正手続条項は、憲法の最高法規性の宣言(憲法第98条)、違憲立法審査権(憲法第81条)及び憲法尊重擁護義務(憲法第99条)とともに立憲主義を支える礎である。
ところが、近時、憲法第96条の憲法改正発議要件を衆参両議院の総議員の過半数に緩和をすることを複数の政党が主張し、今回の参議院議員選挙で改憲勢力が大勝したことから改憲問題が現実味を帯びつつある。
そもそも国家権力の濫用を防止して基本的人権の侵害を防ぐためには、憲法の基本原理が時々の国家権力によってみだりに変えられないという制度的保障が必要となる。現状では、法律制定の場面において激しい政治的対立の下、十分な審議を経ないまま、国会での強行採決が繰り返されてきた。憲法改正発議要件の緩和(単純過半数)は、国民の代表である国会での熟議による合意形成の機会を奪い、時々の国家権力による恣意的な憲法改正に道を開き、立憲主義の土台を揺るがすおそれがある。
しかも、昨今の憲法第96条改正の動向は、まず改正要件を緩和して憲法改正のハードルを下げ、その後に憲法第9条をはじめ、国民主権主義、基本的人権の尊重、恒久平和主義という憲法の基本原理の改正にも適用されるものであって、このような基本原理についての発議要件の緩和は到底容認できない。
また、日本国憲法の憲法改正要件は、アメリカ、スペイン、韓国などの先進各国と比較して特に厳格ではない。個別の憲法改正が実現するか否かは、国会の熟議を経て合意形成を成し遂げることができるか、その憲法改正の内容が政治的・社会的要請に応えたものであるか、国民が真に求めているものであるかによるのである。戦後日本の国民は、日本国憲法が保障した自由と権利を享受し、この憲法を基礎として社会的、経済的な発展を実現させてきた。これまでに日本国憲法が一度も改正されなかったのは、国民の多数がそれを望んでいなかったからに他ならず、憲法改正手続を定めた憲法第96条に原因があるわけではない。
更に、2007年5月18日に成立した日本国憲法の改正手続に関する法律(以下「憲法改正手続法」という。)には、国民投票における最低投票率の規定がなく、国会による発議から国民投票までに十分な議論を行う期間が確保されておらず、憲法改正に賛成する意見と反対する意見とが国民に平等に情報提供されないおそれがあるという問題点がある。憲法改正手続法の問題点にはまったく手がつけられないまま、現在、国会の発議要件の緩和の提案だけがなされているのは、本末転倒と言わざるを得ない。
基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士で構成される三重弁護士会は、日本国憲法の立憲主義を尊重し、基本的人権の擁護に力を尽くしてきた。三重弁護士会は、憲法改正発議要件の緩和が立憲主義の根底を覆すおそれがあることを深く憂慮し、憲法96条にかかる改正案に強く反対する。
2013年7月26日
三重弁護士会
会長 向山 富雄