適正な法曹人口の在り方及び司法修習生に対する
経済的支援についての見直しを求める会長声明

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2013年07月26日

適正な法曹人口の在り方及び司法修習生に対する
経済的支援についての見直しを求める会長声明

 平成25年6月26日、政府の法曹養成制度検討会議(以下、「検討会議」という。)における取りまとめが公表された。これにより法曹有資格者の活動領域、今後の法曹人口、法曹養成制度の在り方などについての検討結果が明らかとなった。
 また、同年7月16日、政府は検討会議の取りまとめの内容を是認し、「法曹養成制度改革の推進について」と題する法曹養成制度関係閣僚会議決定(以下「関係閣僚会議決定」という。)を公表した。
 検討会議は、法曹人口について「法曹に対する需要は今後も増加していくことが予想され、全体として法曹人口を引き続き増加させる必要がある」とし、司法修習制度については司法修習生への貸与制を前提とした上での経済的支援措置を講じることを提言する。
 しかし、以下に述べるとおり、検討会議の上記取りまとめ及び関係閣僚会議決定は、法曹志願者の減少や司法修習生の就職難、新人弁護士のOJTの機会の不足などの様々な問題への対応としては極めて不十分と言わざるを得ない。特に緊急性を要すると思われる法曹人口の抑制と司法修習生の給費制復活に絞って言及する。

第1 今後の法曹人口の在り方について
 検討会議は、司法試験年間合格者数3000人という数値目標は現実性を欠くとしつつも、法曹有資格者の活動領域の拡大を図りつつ全体として法曹人口を引き続き増加させる必要があるとし、関係閣僚会議決定は数値目標を立てないとしたうえで法曹人口についての必要な調査を行い、その結果を2年以内に公表するとしている。
 しかし、諸問題の解決のためには、今更法曹人口についての調査を行う必要性は乏しく、まず大幅な司法試験合格者数の減少が不可欠である。
 法曹人口、特に弁護士数の急増にもかかわらず、民事訴訟事件数や法律相談件数は増えず、法曹による法廷以外の分野への進出も限定的である。他方、法曹志願者にとって法科大学院の履修や司法修習に要する時間的・経済的負担は極めて大きいものとなっている。その結果、学生の法学部離れ、極端な入学者の減少による法科大学院の募集停止の続出、司法修習辞退者の増加、著しい就職難など法曹養成をめぐる負の連鎖がますます深刻化し、法曹志願者の減少傾向に歯止めがかからない事態に陥っている。
 三権分立の一翼である司法の担い手となる法曹から有為な人材が離れていく現状は深刻であり、速やかに抜本的な法曹人口対策を講じる必要がある。
 検討会議は、法曹の活動領域の拡大を図る方策を提案するが、新たな法曹養成制度開始以来10年間で検討会議が提案するような活動領域拡大にめざましい点はさしてなく、深刻な就職難が生じている実情を踏まえれば、法曹人口の増加分を吸収できるような活動領域が拡大することは想定し難い。
 また、数値目標を立てないで法曹人口についての必要な調査を行い、その結果を2年以内に公表するとの関係閣僚会議決定は、現状認識が甘く、事態の切迫性を正解していないというべきである。
 以上のとおり、法曹人口の急増による弊害は看過できない状態となっており、法曹需要の拡大も当初の想定ほどではなく、弁護士の就職難が深刻となっている現在、法曹人口の増加を堅持すべき理由はもはや存在しない。
 以上より、適正な法曹人口の在り方に関しては、法曹人口急増の政策を転換すべきであり、具体的には司法試験合格者数を1000人以下に減少させるという対策を速やかに講じるべきである。

第2 司法修習生の経済的支援の在り方について
 検討会議及び関係閣僚会議決定は、司法修習生の経済的支援の在り方について「貸与制」を前提とし、弥縫策に終始している。
 しかし、本年4月、5月に実施されたパブリックコメント(以下「パブコメ」という。)には1ヶ月の間に3119通もの意見が寄せられ、うち法曹養成課程における経済的支援に関する意見は2421通にも達し、その大多数が「司法修習生に対する給費制を復活させるべきである。」との内容であった。また、検討会議では複数の委員から給費制を復活すべきとの意見が出された。
 ところが、検討会議は、給費制復活が妥当であるとの大多数のパブコメに真摯に向き合うことなく座長試案をもとに議論を進め、ほとんど訂正を加えることなく、取りまとめに至った。これはパブコメという手続の趣旨を没却し、幅広い国民の声を軽視するものであり看過することはできない。
 そもそも司法修習制度は、三権の一翼を担う司法における人材養成の根幹をなすものであるから、その制度負担は本来私費負担とすべきものではない。
 現在の貸与制を前提とした司法修習制度は、司法修習時における債務負担の重圧が法曹を志す者の意欲を減退させ、就職難とも相まって、法曹志願者減少の大きな要因ともなっている。
 また、検討会議及び関係閣僚会議決定は経済的支援としては修習専念義務の緩和により一定の場合には兼業を許可することなどの措置を提案する。
 しかし、兼業を認め修習専念義務を緩和することは、フルタイムで密度の濃い修習に励む司法修習生にとって何ら支援策とはならない。そればかりか、修習の実を上げるために必要不可欠な修習専念義務を骨抜きにし、司法修習の意義を損なうおそれがある。
 良質な法曹を養成するためには、司法修習生に対する給費制の復活が必要不可欠である。

 以上より、司法修習生の経済的支援、法曹人口・司法試験合格者数の2点に対する検討会議の取りまとめ及び関係閣僚会議決定は極めて問題が大きく、当会はこれに抗議するとともに、司法試験合格者数を速やかに1000人以下とすること及び司法修習生に対する給費制を復活させることを速やかに実現するよう強く求める。


2013年7月26日
三重弁護士会
会長 向山 富雄