今、改めて適正な刑事手続の確立を求める会長声明

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2010年11月10日

今、改めて適正な刑事手続の確立を求める会長声明

―大阪地検特捜部の元部長らが起訴されるに至った事態を受けて―

 2010年9月10日、大阪地検特捜部が捜査した一連の郵便料金不正事件について、厚労省元局長に無罪判決が言い渡された。ところが、その後、大阪地検特捜部の主任検事が証拠のフロッピーディスクの内容を改ざんしたとして証拠隠滅罪で起訴され、さらにその上司の部長らが、これに関する虚偽の報告をしたとして犯人隠避罪で起訴されるという前代未聞の事件に発展した。

 この事件を通じて、検察官が予め描いたストーリーに沿って、強引に供述調書を作成していたことや検察官6人が早々に取調べメモをすべて廃棄していたことなどが明らかにされている。その上、主任検事らの容疑が事実とすれば、検事は元局長の無罪を示す客観証拠を改ざんした上、これを組織的に隠蔽していたということになり、刑事司法に対する信頼を失墜させる極めて由々しき事態である。

 加えて、この間、大阪東署の警察官が行った任意取調べの状況の録音が公表され、警察においても、恫喝による違法な取調べが行われていたことが明らかとなった。 これら捜査方法の問題は、決して特捜部に限った問題でも、検察官・警察官個々人の資質の問題でもなく、捜査機関の制度的組織的な問題である。かかる違法不当な取調べや証拠の改ざん・隠滅を防ぐには任意取調べを含めたすべての取調べの可視化(全過程の録画)と証拠の全面開示が必要不可欠である。

 他方、このような問題のある捜査方法を招いた背景には、裁判所の供述調書の採否に関する運用、身柄拘束に関する運用があることを指摘せざるを得ない。すなわち、裁判所が違法不当な取調べがあったとの公判廷の供述に十分耳を貸すことなく、安易に調書を採用し、調書の内容に沿った事実認定を行うことから、捜査機関が強引に調書を作成しようとするのである。また、裁判所が捜査機関の請求に応じて安易に長期の身柄拘束を認めることから、捜査機関はこれを利用して、長時間に渡り、精神的に追い詰める違法不当な取調べを行うのである。

 今回の事件を教訓に、裁判所が調書の採否や身柄拘束の運用を改めなければ、捜査機関による問題のある捜査方法は抑止しえないと言わざるを得ない。

 そこで、当会は、大阪地検特捜部の元部長らが起訴されるに至ったことを機に、今、改めて、国に対し、再発防止のために、次のとおり、適正な捜査手続の確立と刑事裁判の運用の改善を求める。

1. 直ちに任意取調べを含むすべての取調べの可視化(全過程の録画)
  及び証拠の全面開示が必要不可欠であり、そのために速やかに刑事訴訟法等の改正を行うこと。
2. 直ちに安易に「任意性」「特信性」を認定し、供述調書を採用する調書主義の運用及び安易に
  「罪証隠滅を疑う相当な理由」を認める勾留・保釈・接見禁止の運用を改善すること。


2010年5月14日
三重弁護士会
会長 出口 崇