司法修習生に対する給費制継続を求める声明

三重弁護士会 >  総会決議・会長声明

2010年03月12日

司法修習生に対する給費制継続を求める声明

 平成16年成立の改正裁判所法に基づき、平成22年11月から司法修習生に対し給与を支給する制度(給費制)が廃止され、これに代えて、希望する者に対して修習期間中の修習資金を国が貸与する制度(貸与制)が実施される予定となっている。そして、この「貸与」制が実施されれば、司法修習を了した者は、修習期間中に「貸与」された修習資金を国に返済する義務を履行すべきこととなる。

 ところで、司法修習制度には、司法修習生が将来、裁判官、検察官又は弁護士のいずれかになるかを問わず、法の支配を実現するために必要不可欠な我が国の司法制度を担う人材を養成するという極めて重要な役割が課せられていることはいうまでもない。したがって、こうした人材を国費で養成することは、国の当然の責務であるというべきである。これまで、「給費制」は、司法修習生を司法修習に専念させることを可能にし、その結果、我が国の司法制度を担う人材が社会に輩出され、また、「給費」制は社会のあらゆる階層・分野の有為で多様な人材を法曹界に確保することに多大な貢献をしてきた。「給費」制が廃止され「貸与」制に移行することは、一部の経済的余裕のある、限られた階層の者でなければ法曹になれないという弊害を招き、社会のあらゆる階層・分野の有為で多様な人材を確保することを困難にしかねない危惧があるといわなければならない。
 近時、法科大学院の志願者の減少が指摘されている。その背景には、司法試験の合格率が当初の予想より低下していることのほか、法科大学院の入学金及び授業料が多額であることや、生活費の負担が重いこと、急激な法曹人口の増加に伴い就職事情が悪化していることなどの経済的な要因があることが指摘されている。「貸与」制が実施されれば、さらなる将来への不安から、法科大学院に有為な人材が集まりにくくなることは明らかであろう。

 いうまでもなく、弁護士の社会的役割は、「国民の社会生活上の医師」として、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」という弁護士法に定める使命に基づき、国民にとって「頼もしい権利の護り手」であるとともに「信頼しうる正義の担い手」として、高い水準の法的サービスを提供することにある。「法の支配」を社会の隅々まで行き渡らせるためには、この弁護士の使命を自覚した質の高い弁護士を輩出する必要がある。
 経済的に不安なく修習に専念できる環境を担保していた「給費」制を廃止することは、これまで質量ともに豊かな専門家教育を後顧の憂いなく享受できていた環境を奪い、また、専門家としての法曹が有すべき矜持と、高い識見と円満な常識に培われた倫理観を醸成する素地を奪うことになりかねない。

 以上のとおり、「給費」制を廃止して「貸与」制を実施することは、有為な人材に対して法曹となる途を閉ざしてしまう虞があり、また、専門家としての法曹が有すべき矜持と、その基礎として必要不可欠な高い識見と円満な常識に培われた倫理観を醸成するという法曹養成制度を変質させることになりかねない。

 よって、当会は、次世代の有為な法曹を養成するために、「貸与」制は断じて実施されるべきではないことを表明し、併せて、「給費」制を存続させることを求めるものである。


2010年3月12日
三重弁護士会
会長 森川 仁