少年法の改正法案に反対する会長声明

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2008年05月09日

少年法の改正法案に反対する会長声明

1. 平成20年3月7日、少年法の一部を改正する法案が閣議決定され、国会に上程された。同法案のうち、①殺人などの一定の重大な少年事件の被害者や遺族となった人たち(以下「被害者等」という)に少年審判の傍聴を認めること、②記録の閲覧・謄写の認められる範囲を拡大すること、については、少年の健全な育成を図るという少年法の理念に反するおそれが高い。したがって、当会は、同法案に反対する。

2. そもそも少年審判の目的は、非行少年を処罰することにあるのではない。その非行の原因を探求し、再び非行を繰り返すことのないよう、少年自身の内省を深めさせるとともに、その環境調整を行うことにある。そのため少年法は、「審判は懇切を旨として、なごやかにこれを行わなければならない」とした上で、少年を取り巻く環境等に深く分け入り、少年の健全育成に真に必要な対応を審理、検討するため、少年審判を原則非公開としている。

3. ところが、同法案は、殺人などの一定の重大犯罪の被害者等が少年審判を傍聴することを認める。しかし、被害者等の傍聴を認めると、精神的に未熟な少年が必要以上に緊張し、萎縮するため、自身の体験や感情等を素直に表現できず、内省を深められない結果、教育的・福祉的効果を得ることが困難となる。また、少年審判は事件発生から間もない時期に開かれることから、少年も被害者等も感情を抑え切れない状況にあり、このため、少年の防衛的態度と被害者等の強い処罰感情とが激しくぶつかり合い、双方を傷つける結果となる可能性が極めて高い。そうなると、懇切、なごやかな審判の実現は不可能若しくは著しく困難となる。
 そして、審判に被害者等が傍聴していることを過度に意識した審判官が審判を懇切、なごやかな場から責任追及の場に変えていくおそれもないとは言えない。
 以上のとおりであるから、被害者等による審判傍聴は、少年審判の教育的・福祉的機能を損ない、少年の健全な育成という少年法の理念に反する可能性が高い。

4. ところで、同法案は、被害者等が閲覧・謄写できる記録の範囲を非行事実に係る部分に限ることなく、少年の身上・経歴等に関する部分まで拡大することを認める。しかしこれは、少年やその家族のプライバシーを著しく侵害し、少年の社会復帰及び更生を妨げることになりかねない。

5. 確かに被害者等の「事件の真相や原因を知りたい。少年の反省状況を確認したい」という希望や意見は理解できる。しかし、そのような被害者等の権利を保障するためには、少年法の基本理念に反するおそれのある審判傍聴等によるのではなく、各関係機関が連携し、平成12年改正少年法により導入された、被害者等による記録の閲覧・謄写、被害者等の意見聴取、審判の結果通知の各制度について、被害者等がこれらを十分に活用できる体制を整備・充実させ、被害者等に対する早期の経済的・精神的支援制度を拡充することによるべきである。

 以上より当会は、被害者等に対する少年審判の傍聴を認め、被害者等による記録の閲覧・謄写の対象となる記録の範囲拡大を内容とする上記法案に反対し、国会における廃棄を求める。


2008年5月9日
三重弁護士会
会長 室木 徹亮