いわゆる「ゲートキーパー立法」に反対する会長声明

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2006年02月14日

いわゆる「ゲートキーパー立法」に反対する会長声明

1. 当会は、不動産売買等の取引について、弁護士をゲートキーパー(門番)と位置づけ、『疑わしい取引』を警察庁が所管するFIU(金融情報機関Financial Intelligence Unit)に報告する制度を創設する立法に反対します。

2. 2003年8月、FATF(OECD諸国などによる国際的なテロ資金対策にかかる取り組みである『金融活動作業部会』Financial Action Task Force)は、犯罪収益の洗浄(マネーロンダリング)やテロ資金対策を目的として、以前から規制の対象としていた金融機関に加え、宝石商、貴金属商、両替商、公証人、会計士、不動産業者とともに弁護士に対しても一定の取引(不動産売買、会社、法人等の設立運営、依頼者の資産管理、銀行預金等の口座管理など)に関して、『疑わしい取引』をFIUに報告する義務を課すことを勧告し、日本政府の国際犯罪等国際テロ対策推進本部は、これを受けて2004年12月、FATF勧告完全実施を決定し、2005年11月には、国内法整備の一環としてFIUをそれまでの金融庁から警察庁に移管することを正式決定いたしました。
 FATF勧告が求める内容からすれば、弁護士であっても宝石商などと同様に「疑わしい取引」を報告しなければならず、かつ通報したことをその依頼者、顧客に内報することも禁止され、通報しておけばそれによって生ずる責任をまぬがれるものの、通報しなかった場合には刑事罰その他の制裁が課されるという枠組みの法律が制定されることになります。

3. 弁護士は、市民の人権を擁護することを職責として、政治権力から独立していることが求められ、職務上知りえた秘密を保持し、依頼者に高度な守秘義務を負っており、それが弁護士制度や司法制度への信頼の基礎となっています。その弁護士が、顧客から聞いた秘密「疑わしい」「取引」を警察庁へ通報することとなれば、市民は弁護士にでさえ不信感を持ち真実を打ち明けた相談ができなくなり、また一部の違法内容だけを隠すようなことになれば法律を遵守した適切な援助さえできなくなる恐れすらあります。

4. このようにFATF勧告そのものが弁護士制度本質にかかわるものであるためアメリカ政府は提案もしておらず、カナダでは以前あった通報制度が各州の裁判所で執行停止され、政府は弁護士への適用を撤回しています。ベルギーやポーランドでは違憲訴訟が継続していますのでその動向も見守って行く必要もあります。
 弁護士は、マネーロンダリングやテロ資金対策を決して否定するものではなく、弁護士がそれらに関与すれば懲戒処分を受けるものであることは当然のことでありますが、いわゆるゲートキーパー立法は、弁護士を依頼者の秘密を密告する警察庁の手先とするような制度にならざるをえませんので、弁護士制度ひいては司法制度そのものに対する信頼を根底から覆す重大な問題を含んでいるのです。
 政府は平成18年度通常国会に法律案を提出する構えでありますが、当会はFIUを警察庁とするいわゆるゲートキーパー立法に反対を表明します。


2006年2月14日
三重弁護士会
会長 降籏 道男