「弁護士報酬敗訴者負担制度」についての三重弁護士会会長声明

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2003年09月24日

「弁護士報酬敗訴者負担制度」についての三重弁護士会会長声明

第1.意見の趣旨
 弁護士報酬敗訴者負担制度を乱訴の防止等を理由に一律に導入することは反対である。

第2.意見の理由
1.弁護士報酬敗訴者負担制度が両面的に導入されることとなると,権利侵害をされた国民は,万一の敗訴の場合の弁護士費用の負担まで考えて提訴しなければならないこととなり,万一の敗訴の場合の不安,心配から,提訴を諦めざるを得ない案件が増えることとなると思われる。
 弁護士報酬敗訴者負担制度は,主として,被告とされるおそれのある立場の者からの事前の訴訟抑制策を立法化しようとする制度であるが,その反面,権利侵害をされた国民が実質的に保証されなければならない正当な裁判を受ける権利を侵害するおそれのある制度である。

2.導入の理由となっている「乱訴の恐れの防止」をするには,裁判所が「著しい乱訴である」と認めた場合に,乱訴の原告に対して,相手方の弁護士費用の負担を宣告するなど,一律導入とは別の制度をもうけて規制すればよいことであって乱訴を防止するために,国民の裁判を受ける権利を実質的に抑制することとなる「弁護士報酬敗訴者負担制度の一律導入」をするのは本末転倒であり,将来的に禍根を残すこととなる。

3.両面的敗訴者負担の問題点を糊塗するために,一部の訴訟に片面的敗訴者負担を導入しようとする見解があるが,何を両面的敗訴者負担とし,何を片面的敗訴者負担制度とするかについては,これを決定するについて,困難な問題があり,片面的敗訴者負担制度の類型から漏れた訴訟について,とりかえしのつかない制度矛盾が生じることとなりかねない。
 一般的には,社会的,経済的弱者が原告となる訴訟,あるいは,市民が提訴する訴訟や中小企業・零細企業が原告となる訴訟においては,両面的敗訴者負担制度を導入すべきではないと考えるが,そうすると,両面的敗訴者負担制度を導入する意味はほとんどなくなってしまう。

4.両面的敗訴者負担の導入とは別に,片面的敗訴者負担は,積極的に導入を検討すべきである。
株主代表訴訟や住民訴訟では,片面的敗訴者負担が制度的に実現しており,交通事故など不法行為に基づく損害賠償請求訴訟においては,保険会社側など加害者に対して弁護士費用の負担を命じる片面的敗訴者負担が実務上実現している。
 弁護士費用の負担に関する制度設計をするについては,上記の訴訟以外にも,次のような訴訟穎型については,原告の権利侵害を実質的に回復するため,あるいは,民主主義の発展に寄与するという公益的観点からの訴訟であることに鑑み片面的敗訴者負担制度を積極的導入すべきである。

(例) 労働訴訟,公害・環境訴訟,消費者訴訟,医療過誤訴訟,行政訴訟     情報公開訴訟

5.結語  司法アクセスを実質的に侵害する弁護士費用の両面的敗訴者負担制度の導入には反対である。片面的敗訴者負担の導入は,権利侵害の実質的回復や公益的訴訟の観点から,積極的に制度設計すべきである。

以 上

2003年9月24日
三重弁護士会
(平成15年度)会  長  村 田 正 人