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2025年11月26日
国際刑事裁判所(ICC)の独立・公正な活動の尊重を求める会長声明
1 国際刑事裁判所(International Criminal Court: 以下「ICC」という)は,20世紀の二度の世界大戦において,多数の人々が残虐な行為の犠牲となったことを受け,「国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪」である4つの犯罪(core crimes:コアクライム),すなわち集団殺害犯罪(ジェノサイド罪),人道に対する犯罪,戦争犯罪及び侵略犯罪について,その責任を有する個人に対して刑事責任を追及するための常設の国際司法機関です。
1998年(平成10年)7月に国際連合全権大使会議において採択され、2002年(平成14年)7月に発効した国際刑事裁判所に関するローマ規程(以下「ローマ規程」といいます。)に基づき,オランダのハーグに設立され,現在の加盟国は125の国・地域に及びます。
ICCは,設立以降,被害者の苦難に光を当て,法に則った司法手続を行うことにより,人類全体の平和と安全,そして人間の尊厳を維持する使命と役割を担ってきました。
2 しかし,近年,ICCの独立性が深刻な危機に直面する事態が起きています。
2023年(令和5年)3月には,ウクライナに対する軍事侵攻に関連しICCがロシ ア連邦の大統領らに逮捕状を発付したことに対し,ロシア連邦はICCの検察官及びICC予備審判部の複数の裁判官に対して逮捕状を発付しました。
また,2024年(令和6年)11月にパレスチナ自治区ガザ地区における人道に対する罪と戦争犯罪の容疑でICCがイスラエル国のベンヤミン・ネタニヤフ首相らに対して逮捕状を発行したことに対し,2025年(令和7年)2月,アメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領が,ICC関係者の資産凍結,アメリカ合衆国への入国禁止等を内容とする大統領令に署名しました。その後、トランプ政権は実際に、2025年(令和7年)2月10日には主任検察官に、6月には裁判官4人に、7月にはパレスチナの人権状況に関する国連特別報告者に対し、8月には2人の判事と、2人の副検事に対して制裁を科しています。
3 日本は,ICCへの加盟以来,一貫してその活動を支持し,2024年(令和6年)現在,最大の分担金拠出国であるとともに,これまで継続して裁判官を輩出し,現在のICC所長は日本出身の赤根智子氏(以下「赤根所長」といいます。)です。
2025年(令和7年)2月7日,赤根所長は,上記のアメリカ合衆国の措置に対して,「(アメリカ合衆国の措置は)ICCの独立性と公平性を損なう」ものとして「深い遺憾の意」を表明し,「ICC加盟国,法の支配に基づく国際秩序,そして数百万人もの(犯罪)被害者への深刻な攻撃だ」と非難しました。
さらに同7日,ICCに加盟する79の国・地域が,上記のアメリカ合衆国大統領令は「深刻な犯罪が免責となる危険性を高めるものだ」との批判の共同声明を発表し,制裁により現在進行中の捜査が阻害されるだけでなく,ICC職員や事件関係者の安全が脅かされると訴えました。声明には英国やフランス,ドイツ,カナダなどが名を連ねています。
しかし,日本は,この共同声明に加わっていません。人間の尊厳を維持する使命と役割を担ってきたICCの活動への干渉に対して,批判の意を表明していないのです。
4 司法機関の独立性と公平性の維持は,国際社会における法の支配の貫徹のために不可欠です。ICCの裁判官がその独立性及び公正性を維持し(ローマ規程40条),いかなる不当な干渉も受けることなく職責を果たすことができるよう国際社会に対して積極的に働きかけることは,日本国憲法が掲げる国際協調主義ひいては個人の尊厳の理念に適うものです。
日本政府は,赤根所長の声明や79もの国・地域による共同声明と歩調をあわせ,ICCが不当な圧力にさらされることなく,その独立性を維持して正義を実現できるよう,積極的に取り組むべきです。
5 当会は,日本政府に対し,ICCの独立性及び公平性を損なう活動や制裁に対し,明確に反対する立場を表明することを求めるとともに,ICCが存続の危機に立たされている今こそ,ICCの機能強化のための人的・物的支援のさらなる拡充をすることを求めます。
2025年(令和7年)11月18日
三重弁護士会
会長 伊 賀 恵
























