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2025年07月24日
臨時国会での再審法改正の実現を求める会長声明
本年6月18日、衆議院に「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)が提出され(第217回国会衆法第61号)、その後、衆議院法務委員会に付託されて、現在、閉会中審査となっている。
本法案は、「再審制度によって冤(えん)罪の被害者を適正かつ迅速に救済し、その基本的人権の保障を全うする」という観点から、①再審請求審における検察官保管証拠等の開示命令、②再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止、③再審請求審等における裁判官の除斥及び忌避、④再審請求審における手続規定を定めるものである。これは、当会がこれまで求めてきた再審法改正の内容と軌を一にするものであって、高く評価できる。
「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟(再審法改正議連)」(会長:柴山昌彦衆議院議員)は、昨年3月に発足して以来、全国会議員の半数を超える議員の参加を得て、えん罪被害者、最高裁、法務省、日本弁護士連合会等からのヒアリングを実施し、それを踏まえて改正項目や条文案を検討するなど、精力的な活動を重ねてきたが、今般、それが本法案として結実したものである。当会は、再審法改正議連をはじめとする関係者のこの間の努力に深い敬意を表する。
ところで、再審法改正に関しては、本年4月21日以降、法制審議会刑事法(再審関係)部会(以下「法制審議会」という。)において審議が行われている。そして、国会議員の一部には、「基本法である刑事訴訟法の改正は法制審議会に任せるべきである」という意見が見受けられ、そのこともあって、自由民主党、公明党及び日本維新の会は、本法案の共同提出には加わらなかった。
しかし、法制審議会は法務大臣の諮問機関であり、法務省がその事務局を務めていること、そして、法務省の幹部の多くは検察官であることを考慮すると、特に、検察官保管証拠等の開示命令や再審開始決定に対する検察官の不服申立の禁止など検察官の権限を抑制することとなる規定についての議論を法制審議会に委ねるのは適切でない。実際、この間の法制審議会での議論を見ると、再審手続が「非常」救済手続であることを殊更に強調し、再審における証拠開示の範囲を新証拠及びそれに基づく主張に関連する限度にとどめようとする意見や、再審開始決定に対する不服申立てを禁止することに消極的な意見など、法務省に忖度しているのではないかと思われる意見が散見されており、法制審議会の議論に任せておけば、内容的には本法案と比べて極めて不十分な結果となることが危惧される。また、法制審議会での議論は、まだ始まったばかりであり、具体的な法案の作成がいつになるかも見通せない状態で、法改正のスピードという点でも問題である。
再審法改正は、何よりもえん罪被害者の速やかな救済に資するものでなければならない。この間、静岡4人強盗殺人・放火事件(いわゆる「袴田事件」)や福井女子中学生殺人事件などの著名えん罪事件を通じて、再審法の不備が明らかとなっており、再審法改正を求める世論も、かつてない高まりを見せている。特に、福井女子中学生殺人事件では、有罪認定の有力な証拠が捜査機関による不正な捜査の影響を受けたものであったこと、検察官は、そのことに関する証拠を保管していたにもかかわらず長きにわたりその証拠を開示しなかったこと、また、検察官は、そのような証拠の存在を知りつつ、第1次請求の再審開始決定に対して不服申立を行い、結果、再審開始決定が取り消されてしまったことなどが明らかとなっている。現在、再審を求めている他の事件でも同様の事態が存在する可能性があることを考えると、かかる不正義は早急に正されなければならない。
えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現するためには、「国の唯一の立法機関」である国会において、あるべき再審法改正の方向性を示すことが重要である。
よって、当会は、国会に対し、速やかに本法案の審議を進め、今秋にも予定されている臨時国会において本法案を可決・成立させることを強く求める。
2025年(令和7年)7月24日
三重弁護士会
会長 伊 賀 恵