選択的夫婦別姓制度の早期実現を求める会長声明

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2025年03月19日

選択的夫婦別姓制度の早期実現を求める会長声明

 

第1 声明の趣旨

 当会は、政府および国会に対し、民法750条を改正し、選択的夫婦別姓制度を速やかに導入するよう強く求める。

 

第2 声明の理由

1 民法750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定め、夫婦同姓を義務付けているため、カップルの双方が自らの姓を維持したまま婚姻したいと願っていても、いずれか一方は自分の意に反して姓を変更しなければ婚姻をすることができない。厚生労働省の人口動態統計によれば、2023年、約95%もの夫婦において女性が姓を変更しており、事実上多くの女性に改姓を強いている現実がある。

2 2015年12月16日、最高裁判所大法廷判決は、「氏を改める者にとって、そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり、従前の氏を使用する中で形成されてきた他人から識別し特定される機能が阻害される不利益や、個人の信用、評価、名誉感情等にも影響が及ぶという不利益が生じたりすることがあることは否定できず、特に、近年、晩婚化が進み、婚姻前の氏を使用する中で社会的な地位や業績が築かれる期間が長くなっていることから、婚姻に伴い氏を改めることにより不利益を被る者が増加してきていることは容易にうかがえるところである。」と指摘しているところであり、夫婦同姓による不利益の存在を認めている。

  また、2021年6月23日、最高裁判所大法廷決定では、反対意見において、民法750条は「当事者の婚姻をするについての意思決定に対する不当な国家介入に当たるから、本件各規定はその限度で憲法24条1項の趣旨に反する。」「選択的夫婦別氏制を導入することによって向上する国民の福利は、同制度を導入することによって減少する国民の福利よりもはるかに大きいことが明白であり、かつ、減少するいかなる福利も人権又はこれに準ずる利益とはいえない。」「夫婦同氏制は、現実の問題として、明らかに女性に不利益を与える効果を伴っており、両性の実質的平等という点で著しい不均衡が生じている。」といった意見が示されているところである。

  これらの不利益を解消し、個人の尊厳と両性の本質的平等を保障するためには、選択的夫婦別姓制度を導入することが必要不可欠であり、すでに多くの地方議会においても、選択的夫婦別姓制度の導入を求める意見書等が採択されている。三重県議会においても、2019年3月15日、「選択的夫婦別姓制度」の法制化を求める意見書が採択された。

3 選択的夫婦別姓制度の導入に対しては、家族の絆や一体感を損ねるおそれや、片親と姓が異なることで、子が社会的な偏見や差別を受けるおそれがあるという懸念が指摘されている。

  しかし、これらの懸念は、夫婦や親子は同一の姓であるべきという、現行制度に由来する価値観を前提とするものにすぎない。そもそも、家族の絆や一体感は、日々のコミュニケーションや愛情によって育まれるものであり、姓が同一であることだけがその基盤となるわけではない。現行制度においても、両親が離婚や再婚をしたり、事実婚の両親から子が生まれたり、子や親が養子縁組をしたり、子が婚姻した場合などには親子において姓が異なることはある。国際社会において、夫婦別姓は当然の権利として認められており、親子で姓が異なることは当然に生じている。親子の姓が異なっていても、良好な関係を築いている家族は、現に数多く存在している。

  選択的夫婦別姓制度の導入によって、夫婦別姓が社会に定着し、親子の姓が異なることがごく普通のことになれば、上記のような懸念は解消されると考えられる。

  一方で、夫婦同氏に例外を許さないことは、若年層の結婚意欲を低下させ、ひいては婚外子の少ない日本において少子化が進む要因の一つとなっている可能性がある。積極的に結婚したいと思わない理由に、独身女性20歳~39歳の約4分の1、40歳~69歳の約3分の1が「名字・姓が変わるのが嫌・面倒だから」という調査結果もある(男女共同参画局「2021年度人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査」)。

現行制度に由来する価値観のみにとらわれない、多様な価値観の許容が急務である。

4 旧姓の通称使用の制度化によって、選択的夫婦別姓制度を導入する必要がないという意見もある。しかしながら、2024年6月に一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)が発表した提言によれば、「通称使用は日本独自の制度であることから、海外では理解されづらく、寧ろダブルネームとして不正を疑われ、説明に時間を要するなど、トラブルの種になることもある。」「ビジネスの現場においても、女性活躍が進めば進むほど通称使用による弊害が顕在化するようになった」と指摘されている。また、実際の運用においては、通称名ではなく戸籍名が公式な場面で求められるケースが多く存在するため、通称使用の制度化は根本的な解決策とはならない。

5 2025年現在、G20加盟国を含む世界190か国以上で、法律によって夫婦の姓を同姓とするように義務付けている国は、日本のみである。日本だけが夫婦別姓を希望する権利を認めず、国際的な潮流から大きく遅れている。

  国連女性差別撤廃委員会は、日本政府に対し、2003年以降、過去4回にわたり選択的夫婦別姓制度の導入を勧告している。

  選択的夫婦別姓制度は、婚姻する二人の自由な意思に基づき、同姓か別姓かを選択できる制度であり、夫婦同姓を希望する人にも、夫婦別姓を希望する人にも、等しく婚姻の自由を保障するものである。

  氏名は、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する(最判1988年2月16日)ものである。

  夫婦別姓を希望する者の婚姻の自由と人格権を保障し、国民の福利向上に貢献する制度を定める必要がある。

6 以上の諸状況を踏まえ、政府および国会は、夫婦同姓の強制を定める民法750条を改正し、希望する者は婚姻前の姓を保持したまま婚姻することができる選択的夫婦別姓制度を速やかに導入すべきである。

以上

 2025年(令和7年)3月17日

                        三重弁護士会

                         会長 長 谷 部 拓 哉