三重弁護士会 > 総会決議・会長声明
2024年08月22日
商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)における代表取締役等住所非表示措置に関し、弁護士による職務上請求制度の創設等を求める会長声明
1 2024年(令和6年)4月16日、「商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)」が公布され(以下「本省令」という。)、同年10月1日の施行が予定されている。本省令は、一定の要件を満たした場合には、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人(以下「代表取締役等」という。)の住所の一部について、申出により、登記事項証明書や登記情報提供サービス等に表示しない措置を定めたものである。
2 本省令施行後
⑴ 本省令施行後の対応
同措置は、代表取締役等のプライバシー保護の観点からも適切なものと考える。
ただ、一方では、代表取締役等の住所は、会社に事務所や営業所がない場合の普通裁判籍を決する基準となり、本店所在地への送達が不能となった場合には代表取締役等の住所を送達場所とすることを可能とするものでもあり(民事訴訟法4条4項)、また、会社との取引等においても、代表取締役等の責任追及などをする際に必要となる情報である。
この点、本省令施行後に、代表取締役等の住所非開示措置が講じられた場合、代表取締役等の住所を把握する方法として、登記簿の附属書類を閲覧することになる。ただし、この手続きによる場合、請求人(被害者)ないしその代理人は、利害関係を疎明する資料をもって、管轄法務局の窓口まで赴くか、ウェブ会議システムを利用した閲覧請求(令和6年法務省令第32号)をしなければならない。
⑵ 同対応の問題点
ア 前者の方法は、請求人の住所から管轄法務局が遠方に所在する場合には、請求人に対し、大きな経済的負担を課すこととなるし、時間的な負担も大きい。
後者の方法も、請求人が、窓口又は郵送で、所定の方式により登記申請書の閲覧請求を行った後、登記官が、これを相当、かつ、正当な理由があると判断した場合、請求人に連絡して日程調整を行い、実際の閲覧手続に進むというものであり、実際の閲覧に至るまで相当の時間を要し、迅速な閲覧は不可能である。
イ 特に、昨今、国際ロマンス詐欺やSNS投資詐欺等の詐欺商法が多数発生して社会問題化しており、被害金の振込先等で、会社名義の預金口座等が多数悪用されている状況にある。会社名義の預金口座等が悪用される等の方法により被害が発生した場合、被害者において、代表取締役等への送達や役員責任追及、保全のため、迅速に、代表取締役等の住所を把握したいというニーズは、実務上、極めて高い。また、会社に事業所や営業所がなく、被害者の請求につき消滅時効の問題がある場合など、被害者が、権利の実現のため、即時に代表取締役等の住所を把握する必要があるところ、本省令施行後は、消費者被害等の救済活動に悪影響をもたらすことが懸念される。
3 そこで、当会においては、次の2点を求める。
⑴ 代表取締役等の住所の一部を不記載とする措置がなされた場合においても、弁護士または弁護士法人が、その職務として受任事件または事務に関する業務を遂行するために必要な範囲で、迅速に代表取締役等の住所情報の開示を求めることができる職務上請求制度(オンラインにより住所情報を取得することを含む。)の創設を求める。
弁護士または弁護士法人は、受任事件または事務に関する業務を遂行するにあたり、代表取締役等の住所情報が必要な場合が少なくない。そして、弁護士または弁護士法人は懲戒手続(弁護士法第56条)に裏付けられた法制度上の倫理規律に服しているのであり、職務上請求を認めても、事件等の処理に必要な範囲を超えて、代表取締役等の住所情報の開示を求めることはなく、代表取締役等のプライバシーが必要以上に侵害されるものではない。なお、デジタル化推進の中における職務上請求の方法としては、オンラインにより、迅速に代表取締役等の住所情報を閲覧・取得できる仕組みを設けることも不可欠と考えている。
⑵ 本省令の施行にあたっては、登記の附属書類の閲覧を申請できる「利害関係」を有する者につき(商業登記規則第21条第2項第3号)、柔軟に解する運用を図るため、通達の発出などを求める。
代表取締役等のプライバシーの保護が必要であるとはいえ、私人の権利行使を実現するために、代表取締役等の住所情報が必要な場合に、その情報が得られないことにより、権利実現の機会を失しないような運用が必要と考える。
2024年(令和6年)8月21日
三重弁護士会
会長 長 谷 部 拓 哉