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2024年05月21日
三重県内のすべての市町において犯罪被害者支援に特化した条例の制定及び犯罪被害者の経済的支援における市町間格差を無くすことを求める会長声明
2023年(令和5年)10月20日、中部弁護士会連合会は、三重県桑名市において、「『犯罪被害者による損害賠償請求の実効性確保』~債務名義の取得、債務名義に基づく回収に向けて~」とのテーマで第71回中部弁護士会連合会定期弁護士大会シンポジウムを開催し、同定期大会において、「国及び地方公共団体による、犯罪被害者の十分な損害回復及び経済的補償の実現を目指す宣言」が承認された。同宣言では、国に対して、犯罪被害者の損害回復の実効性確保のために、国費による犯罪被害者支援弁護士制度の創設や犯罪被害者が損害回復及び補償を受ける権利を定めた犯罪被害者等補償法の制定を求めるほか、地方公共団体に対しては、特化条例を制定し、犯罪被害者の経済的支援を行うことを求めるとともに、損害回復の実効性確保が十分に行えていない現状をふまえて、中部弁護士会連合会に所属する各単位会は、犯罪被害当事者団体、犯罪被害者支援団体、地方公共団体、報道機関等にアプローチし、国よりも早く、地方公共団体から、損害賠償請求の立替払制度を含めた特化条例の制定を求める活動を積極的に行うことを宣言した。
三重県では、犯罪被害者遺族が当時の三重県知事宛ての書簡において窮状を訴えたことを契機に、平成31年3月に、「三重県犯罪被害者等支援条例」が制定された。都道府県で初めてとなる見舞金制度が導入された同条例は、同年4月1日に施行された。その後、犯罪被害者遺族が県内の全ての市町を訪ね、各首長に犯罪被害者や遺族を支援する条例の制定を訴えたこともあり、現在、三重県内29市町のうち、松阪市、名張市、熊野市、紀宝町を除く25の市町で専ら犯罪被害者等の支援に関する事項について定めた条例(犯罪被害者等の支援に特化した条例(特化条例))が制定されている。また、犯罪被害者や遺族に対する経済的支援として、松阪市、桑名市(ただし遺児への支援金30万円有り)、尾鷲市、いなべ市を除く25の市町で、遺族に30万円、重症病を負った被害者ご本人に10万円の支援金制度が導入されているほか、上記4市と亀山市を除く24市町で、精神療養見舞金制度が導入されている(四日市及び東員町は重症病見舞金に含む)(令和5年11月現在)。
犯罪被害者等基本法(以下「基本法」という。)は、第3条第1項で、基本理念として「すべて犯罪被害者等は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する。」と定めている。そして、犯罪被害者支援のための施策の策定及び実施について、第4条で、国は、基本理念にのっとり、犯罪被害者等のための施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有すると定めるとともに、第5条で、地方公共団体に対しても、基本理念にのっとり、犯罪被害者等の支援等に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有すると定めている。この点、条例未制定の市町でも、要綱で犯罪被害者等支援の施策を策定しているところはある。しかしながら、条例は、地方公共団体がその事務について、議会の議決によって制定する法規であり、法的拘束力がある一方、要綱は、行政機関内部における内規であって、法規としての性質をもたない。基本法の理念に則り、犯罪被害者等の権利を保障するためには、内規に過ぎない要綱では不十分であり、条例を制定し、法的根拠を明確にすることが必要である。その際、制定される条例は、生活安全条例等に犯罪被害者等支援に関する抽象的な努力義務を盛り込むだけでは足りず、より具体的施策が明記された特化条例が必要である。
なぜなら、市町は、特化条例を制定することで、基本法第5条の責務を果たすために、犯罪被害者等支援に対する市の基本方針や方向性を強く示すことができ、要綱では定められない法律事項、例えば、被害者支援計画の制定など行政機関への義務付けや権能付与、住民や事業者の責務のほか、地域住民等の権利・義務に関する事項などを、具体的に定めることができる。加えて、基本法3条3項で、「犯罪被害者等のための施策は、犯罪被害者等が、被害を受けたときから再び平穏な生活を営むことができるようになるまでの間、必要な支援等を途切れることなく受けることができるよう、講ぜられるものとする。」と定められており、被害者支援の質の確保と、支援の持続性・継続性の確保のためにも、特化条例を定めて施策が容易に改廃されることのないようにすべきである。
また、自治体間で支援金等の経済的支援の有無や金額に差があると、犯罪被害者等が住んでいる市町によって、支援に格差が生じることになるが、犯罪被害者等の権利保障のためにも、可能な限り平等な支援が受けられるべきである。犯罪被害者等の平等な支援という点でも、すべての市町に特化条例が制定されることが望まれる。
よって、当会は、中部弁護士会連合会を構成する単位会の一つとして、三重県内のすべての市町に対し、犯罪被害者支援に特化した条例の制定及び犯罪被害者に対する経済的支援の市町間格差解消を求める。
2024年(令和6年)5月16日
三重弁護士会
会長 長 谷 部 拓 哉