特定商取引法平成28年改正における5年後見直し規定に基づく改正を求める会長声明

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2023年09月25日

特定商取引法平成28年改正における5年後見直し規定に基づく改正を求める会長声明

 特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)は、特定の商取引類型における不公正な取引類型を規制し、消費者の利益保護を目的としており、これまで問題のある取引類型を規制するために繰り返し改正されてきた。2016年(平成28年)の改正では、附則第6条において、「政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律による改正後の特定商取引に関する法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」と定められており、2017年(平成29年)12月1日の施行から2022年(令和4年)12月で5年を経過した。


 令和5年版消費者白書によると、全国の消費生活センター等に寄せられた消費生活相談は87.0万件であり、前年(令和4年)の85.9万件より増加している。
 この内、特定商取引法の対象取引分野のうち訪問販売・電話勧誘販売については、全体に占める割合は13.1%となっているものの、70歳代や80歳代以上では、それぞれ17.7%、27.7%と他の年齢層に比べて高くなっている。なお、令和4年版消費者白書によれば、認知症等高齢者の中では48.6%と圧倒的な多数を占めている。このことから、超高齢社会において判断力の衰えた高齢者が悪質商法のターゲットにされていることがうかがわれ、今後更にこの傾向が強まることが懸念される。
 また、令和5年版消費者白書によれば、世代全体における「インターネット通販に関する相談」は29.1%と最多となっており、前年よりも増加しており、デジタル社会の進展やコロナ禍の影響もあって、インターネット通販におけるトラブルが減少していないことが見て取れる。この傾向は、急速に進むデジタル社会の進展により今後更に強まると思われる。
 さらに、連鎖販売取引(マルチ取引)は全体の0.8%にすぎないものの、20歳代においては3.3%と他の年齢層に比べて高い比率を占めており、2022年(令和4年)4月に民法上の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられたことによる若者のマルチ取引被害の増加が予想される。
 このような被害状況を踏まえると、現行の特商法の施行状況において被害防止のための措置を講ずる必要性のあることは明らかであり、被害が増加している取引類型を中心とした以下のような特商法の改正を早急に行う必要がある。

 まず、訪問販売においては、特商法第3条の2第2項で、消費者が契約を締結しない意思を表示した場合に事業者の勧誘を禁止しているところ、「訪問販売お断り」という張り紙等について同項の適用があることを明文で規定すべきである。
 同様に、電話勧誘販売においても、特商法17条で、消費者が契約を締結しない意思を表示した場合に事業者の勧誘を禁止しているところ、同条の規律をさらに進めて、消費者が意に反する電話勧誘(接触)を受けないようにするために、Do-Not-Call制度(電話勧誘を受けたくない人が電話番号を登録機関に登録し、登録された番号に事業者が電話勧誘することを禁止する制度)のような、消費者が事前に電話勧誘販売を拒絶できる制度を導入すべきである。なお、その際には、登録機関の保有する電話番号を事業者側が照会する制度(リスト洗浄方式)を採用するべきである。

 次に、通信販売においては、消費者が能動的にカタログやウェブサイトを閲覧して申込みを行う形態を想定し規制が設けられてきたところ、最近では、消費者が利用するSNSなどに販売業者からのメッセージが突然送信されたことやSNS等の利用中に表示される広告を契機として消費者トラブルに発展するケースが多く見られる。このようなインターネットを利用した勧誘については、不意打ち性などの点で訪問販売や電話勧誘販売とその危険性において何ら変わりがないため、通信販売にも他の取引類型と同様又は類似の行政規制や、消費者によるクーリングオフ、不実告知及び重要事実の不告知の場合の取消権といった民事上の規制を及ぼすべきである。

 そして、連鎖販売取引においては、最近では投資、副業、暗号資産などを対象とした「モノなしマルチ商法」が増加し、その勧誘方法もSNS等を利用して勧誘者の素性も分からない場合も多くなっており、個別の取引ごとに対応するのでは不十分な状況となっている。そこで、連鎖販売取引については、行政庁において事業者が行おうとする連鎖販売取引業の適法性・適正性等を事前に審査する手続を経ることを内容とする開業規制を導入すべきである。また、物品販売等の契約をした後に新規加入者を獲得することによって利益が得られる旨を告げてマルチ取引に誘い込む、すなわち特定利益の収受に関する説明を後出しするいわゆる「後出しマルチ」のトラブルも増加しており、その危険性は通常のマルチ取引と同様であることから連鎖販売取引の拡張類型として明文で規定すべきである。

以上のとおり、当会は、国に対し、早急に特商法を改正するよう求めるものである。

 2023年(令和5年)9月20日

                        三重弁護士会

                         会長 伊 藤 明 紀