出入国管理及び難民認定法改定法案に反対する会長声明

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2023年03月16日

出入国管理及び難民認定法改定法案に反対する会長声明

1 政府は、今通常国会(第211回)に出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という)の改定案を提出した。当該改定案(以下、「改定案」という。)は、2021年の通常国会にて廃案となった法律案(以下「旧法案」という)の骨格を維持しており、具体的には①難民申請者の送還停止効の例外、②退去命令違反罪などの罰則の創設、③監理措置制度の創設、④仮放免逃亡罪等の罰則の創設などを維持している。
 当会は、旧法案に先立つ「収容・送還に関する専門部会」が公表した「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」について、2020年11月11日付け会長声明によりその問題点を指摘し、かかる提言に基づく法改正に反対したところであるが、改定案は旧法案が抱える前記問題点をそのまま継承している。
 そのため、当会は、上記提言及び旧法案の問題点が解消されないまま骨格を維持した内容の改定案に対し、次の問題点を改めて指摘し、強く反対する。

 

2 第1に、現行の難民認定申請者に対する送還停止効(出入国管理及び難民認定法第61条の2の6)に例外を設け、3回目以降の難民認定申請者の送還を可能とすることは、庇護を求める者を迫害の危険ある地域へ送還してはならないという国際法上のノン・ルフールマン原則に反するものであり、到底容認できない。とりわけ日本における難民認定の認定率は、先進諸国の中で際立って低いと指摘されている。まず、改めるべきは、難民認定手続きであり、現状のままたやすく法の例外を設けることは、迫害を受けるおそれのある者を生命身体の危険に晒す結果ともなりかねないから、すべきでない。

 第2に、退去命令制度を設け、退去命令違反について罰則を設けるとされている。被退去強制者の中には退去が困難な様々な事情を抱える人々が多く存在し、司法手続きによって難民認定や退去強制令書発付処分等の取消がされる事例も存在する。それにもかかわらず、退去しないことについて刑事罰を下すのであれば、司法手続により救済されうる外国人に対し刑罰の威嚇をもって退去を強制することになり、裁判を受ける権利を侵害するおそれがある。また、退去強制令書の発付を受けた者を支援する者(弁護士も含まれうる)が、本罰則の共犯ともなりかねない。

 第3に、「収容に代わる監理措置」制度が導入され、被収容者につき3か月毎に収容継続の必要性を判断し、「監理措置」に移行できるかどうか検討する仕組みであると報じられている。そもそも、収容は「人身の自由」という極めて重要な人権に対する制約であるところ、収容するかどうかの判断を出入国在留管理庁の判断に委ねる現行制度は、当然ながらこれまでも強く批判されており、2022年11月にも、国連自由権規約委員会から、収容期間の上限が規定されておらず、効果的な司法審査が伴わない収容制度に対する改善勧告を受けている。このような現行制度の枠組みを維持したまま監理措置制度を導入したとしても、出入国在留管理庁に収容の必要性を判断させる以上は、中立性や公平性、透明性は何ら担保されない。本来は現行の入管収容制度自体を抜本的に見直し、収容期間の上限の設定や司法審査の導入を行うべきところである。

 第4に、仮放免等された者が逃亡等した場合の刑事罰を設けるとされている。現在でも、仮放免者は当局への定期的な出頭を求められており、逃亡した場合には仮放免許可が取り消され、保証金が没取されるが、さらに刑事罰を規定することは、仮放免者に対する出入国在留管理庁の管理を強めるものであり、刑事法上の保釈において、逃亡しても刑罰がないこととのバランスを欠いている。また、退去強制令書の発付を受けた者を支援する場合と同様に、仮放免された者を支援する者(弁護士も含まれうる)も、本罰則の共犯ともなりかねない。

 

3 当会の存在する三重県は、県内総人口に占める外国人住民の割合は、2020年からは減少傾向にあるものの、総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(2022年1月1日現在 )」によると、県内総人口に占める外国人の割合が大きく全国第4 位(2.97%)となっている。三重県及び県内各自治体でも、こうした現実を踏まえ、外国人との共生やダイバーシティに向けた取り組みがされている。2020年の当会会長声明でも指摘したとおり、外国にルーツを持つ人たちも、日本国籍者と全く同じく「人」として扱われ、人権が尊重され、擁護されなければならないのであり、入管法の改正も、こうした視座からの解決が不可欠である。

 以上のとおり、当会は、見逃すことのできない問題点を抱えたままである改定案に強く反対する。

 

 2023年(令和5年)3月15日

                        三重弁護士会

                         会長 長 尾 英 介