いわゆる「谷間世代」の不平等の是正措置を求める会長声明

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2018年08月21日

いわゆる「谷間世代」の不平等の是正措置を求める会長声明

1 司法制度は,三権の一翼として,法の支配を実現し,国民の権利を守るための社会に不可欠な基盤であり,法曹はその司法制度を担う重要な使命・責任を負っている。司法修習制度は,高度な専門的能力と職業倫理を有する法曹を育成するための国の重要な制度であり,国には,本来的に公費をもって法曹を養成すべき責務がある。

 我が国では、昭和22年の司法修習制度開始以来,法曹となる司法修習生に対し,裁判所法により司法修習期間中の修習専念義務を課す一方で,医療保険などの身分保障を与え,生活費等の必要な資金を国費から支給する制度(給費制)がとられてきた。

 しかしながら,改正裁判所法の施行により,平成23年11月以降の新第65期司法修習生からは給費制が廃止され,修習期間中に費用が必要な修習生に対して修習資金を貸し付ける制度(貸与制)へと変更された。

 これに対しては,当会は,平成28年1月20日,「司法修習生に対する給付型の経済的支援を求める会長声明」を発出したところである。

 

2 その後,平成29年4月19日,裁判所法が改正され,同年12月に司法修習が開始された第71期とそれ以降の司法修習生に対する「修習給付金」の支給が開始されたものの,同改正は,新第65期から第70期までの,いわゆる「谷間世代」の司法修習生約1万1000人には遡及適用しないものとされた。その結果,谷間世代の経済的負担が,他の世代の司法修習生に比して重くなるという問題が新たに発生した。

 

3 谷間世代で司法修習を受けた者と,従来の「給費制」の世代や,現在の「修習給付金」の支給がなされるようになった世代との間で,司法修習の実質的内容や,その使命・責任に何ら異なるところはない。司法修習の時期が異なるという理由だけで,谷間世代に対してのみ,他の世代に比して重い経済的負担を課すことは明らかに不合理である。

 谷間世代で司法修習を受けた者は,既に,司法制度の担い手となり,今後,一層の活躍が期待されている。しかしながら,大学や法科大学院での奨学金債務に加え,司法修習中の貸与金債務といった大きな経済的負担を抱えた状態では,必ずしも経済的利益に結びつかない,弁護士の使命としての基本的人権の擁護等のための公益的な活動に従事しようとしても,そうした活動ができないといった支障を生じさせるおそれもある。

 

4 谷間世代の経済的負担については,「修習給付金」の支給が開始されることとなる裁判所法改正の国会審議の過程でも指摘され,また,谷間世代をはじめとする多くの会員からも是正措置の必要性の声が挙げられてきたものの,これまで,国においては具体的な是正措置が検討されてこなかった。

 そして,谷間世代の第1期生である新第65期司法修習修了者が司法修習中に受けた貸与金債務について,平成30年7月25日から返済が開始された。抜本的な是正措置が実現されないまま,貸与金債務の返済を継続することは,谷間世代に負担させている経済的不平等・不公平を是正するための方策を複雑なものとし,とりうる是正措置の選択肢を狭めることとなる。

 

5 そこで,当会は,国に対して,谷間世代のみに負担させている経済的不平等・不公平を一律に解消するための抜本的な是正措置を講じることを求めるとともに,平成30年7月25日から開始された貸与金債務の返済について,速やかに一時停止し,抜本的な是正措置が実現するまでその返済再開を猶予するよう求める。

     平成30年8月20日

 

                      三重弁護士会

                       会長 三 浦 敏 秀