秘密保全法制の法案化に反対する会長声明

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2013年01月30日

秘密保全法制の法案化に反対する会長声明

 平成22年12月,内閣官房長官決裁により,政府における情報保全に関する検討委員会が開催され,同月から「情報保全システムに関する有識者会議」が,平成23年1月から「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」がそれぞれ開催され,報告書を公表し,秘密保全法制の速やかな制定を求めた。これを受けた政府における情報保全に関する検討委員会は,同年10月7日に報告書の内容に沿って秘密保全法制の法案化作業を進めることを決定した。
 その後,平成24年12月16日に施行された総選挙により政権が交代したが,与党自由民主党は,民主党政権時代から秘密保全法制の検討を行っていた。しかも,秘密保全法案は同年3月中にほぼ完成しているといわれる。
 このような情勢下においては,秘密保全法制がいつ法案化され国会に提出されてもおかしくない。
 しかし,秘密保全法制の検討に関する有識者会議が非公開とされ,議事録の作成すらなされておらず,秘密保全法制に関し国民の間で議論が十分になされたとはいえない。また,以下に述べるように,秘密保全法制は,国民の知る権利,取材・報道の自由,関係者のプライバシー権等の人権に重大な脅威を与えるもので,基本的人権,国民主権原理を始め,憲法上の諸原理と正面から衝突する多くの問題点を孕んでおり,当会は,同法制の法案化に強く反対するものである。

1. そもそも立法の必要性がない
 報告書では,秘密保全法制の必要性の根拠として情報漏えいに関する事案の存在を指摘し,主要な情報漏えい事件等の概要が資料として添付されているが,いずれも現行法によって捜査が行われ,法的な対応が行われていることからも明らかなとおり,秘密として保護されるべき情報については,国家公務員法や自衛隊法等の現行法でも十分に対応できるのであって,新たな法制を設ける必要性はない。
 また,秘密保全法制検討のきっかけとなったとされる尖閣諸島沖中国船衝突映像の流出の事態も,そもそも秘密として保護すべきものではなく,政府が国民に公開すべき映像を公開しなかった対応に問題があった事案にすぎない。

2. 特別秘密の範囲が不明確かつ広範であり,恣意的運用の恐れがあるとともに罪刑法定主義に反するおそれがある
 報告書によると,①国の安全,②外交,③公共の安全及び秩序の維持の3分野における,特に秘匿の必要性が高い事項を「特別秘密」とする。本法案は,1985年に国民の広範な反対にあって廃案となった「国家秘密法案」にもなかった「公共の安全及び秩序の維持」という概念をいれ,社会のあらゆる分野に秘密の網がかけられることになりかねない。
 しかも,上記3分野に関する情報は極めて広範囲であり,「特に秘匿の必要性が高い事項」との基準はあまりに抽象的である。そのうえ,秘密指定の権限は,原則として「特別秘密」の作成・取得の主体である各行政機関等に付与するとされていることから,秘密保全法制が恣意的に運用され,極めて広範な情報が「特別秘密」の対象とされかねない。
 さらに,「特別秘密」の漏えい行為を処罰する規定は,その概念が広範かつ曖昧であって処罰する範囲が明確ではなく罪刑法定主義等の基本原理と抵触するおそれがある。

3. プライバシー権,思想信条の自由の侵害の恐れがある
 報告書は,「特別秘密」を保全するためには,特別秘密を取り扱う者の管理を徹底することが重要であるとして,そのための手段として,適性を判断する制度(適性評価制度)を導入しようとしている。
 適正評価制度は,秘密を取り扱わせようとする者(以下「対象者」という。)に対して,対象者の行動や環境を調査することができるとしている。その調査対象の範囲は,対象者の信用状態,精神の問題にかかる通院歴など重大なプライバシーにかかわる事項にまで及び,更に調査対象は,対象者の家族,友人にも及び,調査対象が無限に広がる可能性を有している。しかも適性評価を口実に思想・信条の調査をするなど,悪用される危険性もある。

4. 国民の知る権利が侵害され,民主主義の根幹を揺るがせる事態となる
 国民の知る権利は,国民が主権者として民主政の過程において適切に主権を行使するための民主主義社会の根幹を支える極めて重要な基本的人権である。
 それにもかかわらず,報告書では,漏洩行為だけでなく,秘密探知行為自体についても,独立教唆罪,煽動罪,共謀罪の対象としている。その意味するものは,報道機関の単純な取材行為や協議,また市民の行政監視のための情報収集行為や協議などが処罰対象となりかねない危険性があり,ひいては,本来自由であるべき取材活動や市民活動に対する萎縮効果は計り知れず,取材・報道の自由,国民の知る権利に対する重大かつ深刻な侵害となり,民主主義の根幹を揺るがせる深刻な事態を生じることになる。

5. 結論
 以上の理由から,当会は,秘密保全法制の法案化に強く反対をする。


2013年1月30日
三重弁護士会
会長 村瀬 勝彦