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2009年03月11日
取調べの全過程の可視化を求める会長声明
現在、捜査段階における警察官、検察官の取調べは、弁護士の立会いを排し、外部から目の届かない密室において行われている。密室における長時間の強引な取調べによって、虚偽の自白がなされ、自白調書等により冤罪を生み出す例が後を絶たない。
平成19年、鹿児島公職選挙法違反被告事件(志布志事件)、富山強姦事件(氷見事件)など次々と冤罪事件が明らかとなっているが、その背景には、結局、密室での取調べが、捜査官による威圧、利益誘導などの違法・不当な取調べに結びつき、虚偽の自白を誘発したことにある。二度とあってはならないこのような事態を防ぐにためには、少なくとも取調べが密室で行われず、外部の者が監視できるようになること、すなわち、取調べの「全過程」を可視化(録音・録画)以外にはあり得ないと考える。
自白の信用性についての審理が長期間に及ぶ原因は、密室での取調べにおいて何が行われたかについての客観的証拠がなく、調書作成者に対する取調べ状況についての尋問に膨大な時間が費やされるからである。しかし、どのような取調べが行われたかを明らかにするには、取調べの全過程を可視化すれば十分であり、取調べの全過程の可視化が行われれば、自白の任意性について、容易に、また短時間で適正な判定を下すことができる。
とりわけ、本年5月に導入される裁判員裁判においては、長期にわたって裁判員を拘束することが適当ではないことを考えると、取調べの全過程の可視化は不可欠である。
最高検察庁は、2008(平成20)年4月から、従前一部の地方検察庁で行ってきた裁判員裁判対象事件の検察官による取調べにおける一部録音・録画の試行をより本格的に行うことを発表し、また警察庁も、同年度中に警察官による取調べの一部を録音・録画することの試行を開始すると発表した。しかし、これは、検察官の裁量により、検察官による取調べの一部のみを録音・録画するものにすぎない。これでは、検察官による恣意的な運用を許すことになり、取調べの実態の評価を誤らせる危険がある。取調べの可視化の本来の意義は、捜査過程を透明化するところにあり、そのためには、検察官による取調べのみならず、警察での取調べも含めた、取調べの全過程を可視化する必要がある。
2008(平成20)年6月4日、参議院において被疑者の取調べの全過程の録音・録画を内容とする法律案が可決されたが、同法案は衆議院において審議未了廃案となり、現在に至るも取調べの真の可視化は実現するに至っていない。
しかし、海外に目を転じれば、欧米諸国はもちろん、韓国、香港、台湾、モンゴルなど周辺諸国においても、取調べの可視化は既に導入されており、我が国の刑事司法は立ち後れているといわざるをえない。
以上から、当会は、検察官による取調べのみならず、警察での取調べも含めた、取調べの全過程の可視化の早急な実現を求めるものである。
2009年3月11日
三重弁護士会
会長 室木 徹亮