三重弁護士会 > 総会決議・会長声明
2002年11月18日
弁護士報酬敗訴者負担制度に反対する会長声明及び反対署名のお願い
私たちは、弁護士報酬敗訴者負担制度」に反対です!
【弁護士報酬敗訴者負担制度とは】
皆様が訴訟手続を弁護士に依頼される場合,最初に着手金を負担していただき,うまく解決できれば,最後に報酬金をお支払いいただくことになっています。
現在の制度では,訴訟で勝訴しても,依頼者の皆様が依頼弁護士に支払った着手金と報酬(合わせて弁護士報酬といいます。)を敗訴した相手方に支払わせることはできません。逆に,敗訴した場合,相手方がその依頼弁護士に支払った弁護士報酬まで負担する必要はありません。
ところが,今,政府の司法制度改革推進本部司法アクセス検討会では,訴訟の敗訴者に勝訴者が負担した弁護士報酬を支払わせる「弁護士報酬敗訴者負担制度」の導入が検討されています。
【導入の理由は】
なぜこのような制度を導入しようとするのか一例を挙げますと,弁護士に依頼して貸金100万円の返還請求の訴訟を起こし,勝訴して100万円が回収できたと仮定して下さい。弁護士報酬は全額で約24万円程度となります。せっかく100万円返還してもらえる権利があるのに,弁護士報酬に24万円もかかってしまうと,実質的には76万円の権利しか実現できなくなってしまいます。訴訟で勝って正義が認められたのに,敗訴者に弁護士報酬を請求できないのでは権利が目減りしてしまうというのです。あるいは,もっと少額の訴訟になると,回収した金額の大半を弁護士報酬に食われてしまい,場合によっては訴訟を回避してしまうことになりかねないとも言われています。
【素朴な正義感の裏にあるもの】
この制度に賛成する人は,いかにももっともらしい理由を挙げていますが,日本弁護士連合会は「弁護士報酬敗訴者負担制度」の導入に強く反対しています。
ではなぜ,強く反対するのでしょうか。
この制度になれば,勝訴した側の弁護士にとっては,依頼者に弁護士報酬の負担をかけなくて済みますし,法律相談の時に,勝てば相手方から弁護士報酬も取れますと説明すれば,訴訟を勧めやすくなり,弁護士にとってもメリットのある制度ではないかと思いがちです。実は当初弁護士の中でも導入に賛成する人もいたくらいです。
しかし,現在では弁護士会挙げて反対を貫くことで意思一致をしております。その理由は,訴訟をはじめる段階では,勝つか負けるか分からないことが多く,負けてしまえば相手方の弁護士報酬まで負担しなければならないとなると,かえって訴訟を躊躇してしまうことになるからです。訴訟萎縮効果と言っています。これでは,市民を司法から遠ざけてしまい,市民による市民のための司法改革の理念が失われてしまいます。
【社会的弱者が切り捨てに】
公害,医療過誤、DV、薬害、労働、借地借家,消費者,住民訴訟等の訴訟では,社会的弱者が原告となったり,強者の不正を暴こうとしている市民が原告になったりしますが,現実の訴訟では勝てる可能性は他の事件に比べて低いと言われています。証拠は強者に偏在しているのが普通ですから,証拠がないという理由で簡単に負けてしまうことも珍しくはありません。ハンセン病の患者さんらが熊本地裁で国に対し画期的な勝訴判決を獲得されましたが,この訴訟も本当は勝てる裁判ではありませんでした。もし,敗訴すれば,相手方(国側)の弁護士報酬まで持たされるとなるときっと裁判までできなかったことでしょう。通常の民事事件でも,相手方から「裁判すれば弁護士報酬まで取ってやる」とか脅しに使われ,泣く泣く不利な和解をさせられたりする恐れがあ
ります。
また,仮に敗訴したとしても,立法改正につなげたり,社会に問題提起できますから,敗訴イコール不正義という単純なものでは決してありません。
【おかげさまで、2004年に廃案となりました。】
全国の全ての弁護士会で反対署名に取り組んでいます。三重弁護士会でも来年2月までの短期決戦で集中的に署名集めをしておりますので,弁護士会館に法律相談などでお越しになった折りにでもご協力をいただければ幸いです。
2002年11月
(平成14年度)三重弁護士会会長 伊 藤 誠 基