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2026年01月20日
三重県知事が提示した国籍要件復活に関する会長声明
1 一見勝之三重県知事(以下、「三重県知事」という。)は、2025年(令和7年)12月25日の定例記者会見において、「主として情報漏えいの観点から国籍条項を見直しをした方がいいんじゃないかというふうに思っている」との意見を表明し、早ければ2026年度(令和8年度)から県職員の採用に関する国籍要件を見直し、外国籍保有者の採用を取りやめることも含めた検討を始めていることを明らかにした(以下「本件意見表明」という。)。三重県としては、その方針について県民に意見を伺いたいとのことで、本年1月26日から調査を開始するとのことである。
しかし、本件意見表明については、次に述べる点等を踏まえると、重大な疑義がある。
2⑴ 判例は、憲法上の基本的人権の保障について、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、日本に在留する外国籍保有者に対しても等しく及ぶものとしている(最大判昭和53年10月4日)。すなわち、外国籍保有者にも憲法22条に基づき職業選択の自由は保障されており、また、憲法14条に基づき不合理な差別的取扱いを受けない権利を有している。
もっとも、外国籍保有者の公務就任権については、国民主権原理に基づき、住民の権利義務を形成するなどの公権力の行使に当たる行為を行い、若しくは普通地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い、又はこれらに参画することを職務とする「公権力行使等地方公務員」に外国籍保有者が就任することは、日本の法体系の想定するところではないとして、一定の制限を受けることが正当化されてきた(最大判平成17年1月26日)。
⑵ 従前、各都道府県においても、国籍要件が設けられていたものの、1995年(平成7年)、高知県知事が「外国人であったならば支障があっただろうという問題点が考えつかない」との見解を示し、1997年(平成9年)、他の都道府県に先駆けて国籍要件を撤廃した。その後、神奈川県、沖縄県、大阪府などにおいても国籍要件を撤廃する動きが広がり、三重県も1999年(平成11年)に国籍要件を撤廃した。まさに、三重県は、外国籍保有者との多文化共生に向けた先進的な取組みを早い段階で導入したのである。
また、三重県は、2022年(令和4年)5月19日、「差別を解消し,人権が尊重される三重をつくる条例」(以下、「三重県差別解消条例」という。)を公布・施行している。同条例においては、国籍を含む人種等の属性を理由とする不当な差別を解消することを県の責務としている(同条例5条1項、2条1項、同2項)。
三重県知事による本件意見表明は、こうした流れに逆行するものであり、憲法22条に反し、少なくとも公権力行使等地方公務員に該当しない職種について国籍のみを理由に公務の就任を制限することはこれらの人権を侵害するおそれがある。
⑶ 他方、三重県知事の懸念する情報の漏えいの点については、当然に防がねばならないことである。
しかし、外国籍保有者であったとしても、三重県庁の職員として採用された段階で、守秘義務が課されるし、職員は、研修等を通じて、万が一情報を漏えいした場合には懲戒処分や刑事罰に問われることを指導されるのであって、この点については日本人と何ら変わりはない。また、上記懸念は、人事配置の運用、情報管理の厳格化、情報にアクセスした者の記録化等の他の手段を講じることでも払拭できると思われ、少なくとも外国籍保有者の採用自体をとりやめる合理的理由があるものとは思われない。
⑷ そして、これまでに多数者の民意によって少数者の権利を侵害及び制約してきた過去の歴史的事実に鑑みても、別紙記載の問16のアンケート調査は不適切であり、実施すべきでない。
さらに、県民へのアンケート調査の方法についても、「県内居住の18歳以上の方」とされており、選挙人名簿を用いて実施することが予定されている。それゆえ、調査対象は、三重県に住民票を置く日本国籍を有する者のみに限定され、当事者である外国籍保有者の意見は聴取されないことになる。他方で、上記アンケートにおける設問の配置、文言からすると、外国籍保有者が外国へ機密情報を漏えいする存在であるかのような予断を与え、県民の不安をあおりかねないものであり、前記三重県差別解消条例の趣旨にも反するおそれがある。
3 以上に指摘した数々の点を踏まえると、三重県知事による本件意見表明については、重大な疑義がある。
よって、当会は、三重県知事に対し、本件意見表明の撤回を求める。
2026年(令和8年)1月20日
三重弁護士会
会長 伊 賀 恵
別紙
【県職員採用について】
問16 現在、三重県は平成11年以降、職員採用における国籍要件を撤廃し、公的な権限 を持たない業務*であれば外国籍職員を雇用することを可能としており、これまで医師・看護師などの専門職を中心に外国籍職員を採用した実績があります。 その後、世界の中で国によっては、国内外の自国民に対して、法律で自国の情報活 動に協力する義務を課す国があらわれるなど、公的な権限を持たない業務においても 個人情報などの重要な情報を取り扱う県の業務において、公務員の守秘義務に抵触する事案が発生することが懸念されています。 一方で、現在、人材不足により公務員の人材確保が難しい状況が続いています。 今後、三重県職員の採用において、引き続き、公的な権限を持たない業務であれば 外国籍職員の採用を続けるべきだと思いますか。(〇は1つだけ)
1 続けるべき
2 続けるべきでない
3 わからない
* 公的な権限を持たない業務とは、公権力の行使(許認可、徴税等の業務)や公の意思の 形成への参画(管理職としての業務)に関わらない業務のことを言います。
























