子どもの権利保障の推進を求める会長声明

三重弁護士会 >  総会決議・会長声明

2024年12月19日

子どもの権利保障の推進を求める会長声明

 1989年11月20日に国連総会で子どもの権利条約が採択されてから35年,1994年4月22日に日本がこの条約を批准してから30年が経過しています。
 その間,子どもの権利保障のための様々な施策が実施され,特に,2023年には子どもの権利条約の一般原則をこども施策の基本理念とするこども基本法が施行されるとともに,こども施策の司令塔となるこども家庭庁が設立されています。

 

 三重県においても,2011年4月1日に三重県子ども条例が施行され,子どもを権利の主体として尊重すること,子どもの最善の利益を尊重すること,子どもの力を信頼することを基本理念に掲げています。この条例は,地域の多様な主体がともに連携・協働して,子どもが豊かに育つことができる地域社会づくりや,子どもの権利が尊重される社会の実現を目指すものであり,私たち三重弁護士会もその実現を担うものとして,少年事件における付添人活動,家事事件における子どもの手続代理人,いじめ予防授業や法教育出前授業,いじめ防止対策推進法に基づく第三者委員会等の委員推薦,スクールロイヤー事業,子ども弁護士ダイヤルの開設等に,積極的に取り組んできました。

 

 しかし,三重県内において,いじめ重大事態や虐待事案の発生は相次いでおり,いじめや虐待等によって子どもが誰一人苦しむことのない地域社会の実現には至っていません。子ども一人ひとりが,それぞれに持つ豊かな個性を伸ばし育む場である学校や家庭が,全ての子どもにとって,安全や安心や自由を感じられる場ではないというのが現状です。

 いじめや虐待で子どもが誰一人苦しむことのない地域社会は,子どもに関わる全ての大人が,子どもの権利保障とは何かを考え続け,子どもの権利保障のために必要な施策を検討し続け,そして具体的な施策を実行し続けていくことでしか実現できません。そして,子どもの権利保障や必要な施策を検討するには,子どもの声を聴くことが不可欠であり,子どもの意見表明の権利の保障は,特に重要な課題です。
 前述の子どもの権利条約第4条は,締約国に対し,「この条約において認められる権利の実施のためのあらゆる適当な立法上,行政上及びその他の措置をとる」ことを義務づけています。また子どもの権利条約の内容を批准国が遵守しているか確認する機能を持つ,国連子どもの権利委員会は,一般的意見2号「子どもの権利の促進および保護における独立した国内人権機関の役割」で,独立した国内人権機関は条約の実施を促進及び保護するための重要な機構であり,条約の実施を確保しかつ子どもの権利の普遍的実現を前進させるという責任の中に,子どもの権利擁護委員のような機関の設置が含まれるとしております。

 

 日本政府は子どもの権利擁護委員等の子どもの権利の保障を監視し,救済する機関を設置していないところ,各地で独自に子どもの権利を守り,その救済を行う子どもの権利擁護委員制度を条例で設置する地方自治体が増えてきております。

 

 三重県では,本年(2024年),三重県子ども条例の改正が議論されています。当会は,同条例の基本理念に則った,子どもの権利擁護委員制度の設置を含む,より実効性の高い施策を可能とする体制の構築を求めます。加えて,各地域に応じたより細やかな施策を可能とするために,当会は,県内の全ての市町(一部市町は制定あり)において,子ども条例を制定することも求めて参ります。

 

 そして,当会は,今後も,前述の各活動をより良いものへと発展させながら取り組み続け,子どもの権利の保障に係る方々と連携・協力し,子どもの権利が保障される社会の実現に向けて尽力していきます。

 

 2024年(令和6年)12月19日

                        三重弁護士会

                         会長 長 谷 部 拓 哉