いわゆるテロ等組織犯罪準備罪の新設に反対する会長声明

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2016年11月14日

いわゆるテロ等組織犯罪準備罪の新設に反対する会長声明

 先般、政府は、「共謀罪」を「テロ等組織犯罪準備罪」と改めて取りまとめた組織犯罪処罰法改正案(以下「新法案」という。)について、臨時国会への提出を見送り、来年の通常国会での成立を目指す方針である旨報道された。

 過去三度廃案になった共謀罪は、団体の活動として当該行為を実行するための組織により行われる犯罪の遂行を共謀した場合、その遂行に合意した者を処罰する、すなわち、「行為」そのものではなく、「合意」に着目して処罰するというもので、思想信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由などの憲法上の基本的人権を侵害する危険性が指摘されていた。

 報道によれば、新法案は、「団体」を「組織的犯罪集団」とした上で、その定義について、「目的が長期4年以上の懲役・禁固の罪を実行することにある団体」とし、さらに、犯罪の「遂行を2人以上で計画した者」を処罰することとし、その処罰に当たっては、計画をした誰かが、「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の準備行為が行われたとき」という要件を付している。

 しかし、「計画」も、共謀の言い換えに過ぎず、「準備行為」も、予備罪・準備罪の予備・準備行為と異なり、ATMからの預金の引き出し行為など、市民の日常的行為も広く含むとされている。また、「団体」が「目的が長期4年以上の懲役・禁固の罪を実行することにある団体」である組織的犯罪集団とされたが、長期4年以上の懲役・禁固を定める犯罪は600を超え、公職選挙法違反なども含んでいる。

 また、民主党が2006年に提案し、一度は与党も了解した共謀罪法案の修正案では、対象犯罪の越境性(国境を越えて実行される性格)を要件としていたところ、新法案は越境性を要件としていない。国連越境組織犯罪防止条約は、越境組織犯罪を抑止することを目的としたものであるから、越境性の要件を除外しているのも相当ではない。

 このように、新法案は、共謀罪に比べ処罰範囲を大幅に限定しているとは評価できず、むしろ、「テロ」対策の名の下に、思想信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由などの憲法上の基本的人権を侵害する危険性がある。

 政府は,新法案は、国連越境組織犯罪防止条約を批准するために必要であると説明している。しかし、国連越境組織犯罪防止条約については、組織犯罪に関連する重大犯罪について、合意により成立する犯罪が未遂以前に可罰的であれば、批准することができる。つまり、現行法においても、内乱、外患及び私戦の各予備・陰謀罪、殺人、身代金目的略取等、強盗及び放火の各予備罪、凶器準備集合罪等、重大な犯罪について、陰謀罪、共謀罪、予備罪、準備罪の規定が設けられている。また、判例理論として、共謀共同正犯の理論が確立しており、共謀をした者のいずれかが予備行為に及べば、共謀者全員に予備罪の共謀共同正犯が成立する。これらの法律及び判例理論によって、組織犯罪が想定される重大な犯罪について未遂以前の段階で処罰が可能となっているため、テロ等組織犯罪準備罪を新設することなく本条約への批准は可能である。

 よって、当会は、今般、報道された内容であるテロ等組織犯罪準備罪の新設には反対する。


2016年11月14日
三重弁護士会
会長 内田 典夫