労働時間規制の緩和及び労働者派遣法改正案に反対する会長声明

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2015年06月18日

労働時間規制の緩和及び労働者派遣法改正案に反対する会長声明

1. 政府は,本年4月3日,「労働基準法等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)を閣議決定し,国会に提出した。

2. 本法案は,「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設」として,厚生労働省令で定める一定の賃金額以上の労働者が「高度の専門的知識等を必要とし,その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務」に就いた場合には,労働基準法第4章で定める労働時間,休憩,休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しないとするものである(本法案に基づく改正労働基準法41条の2)。
 現行法では,労働者は1日8時間又は1週40時間を超えて働かせることはできないのが原則であり,労働者過半数代表との協定の締結などを経て例外的にこれを超えて労働させた場合には,超過時間に応じた割増賃金(残業代)を支払わなければならない。
 しかし,本法案により対象となった場合はこの労働時間規制の適用を除外されることになるので,どれだけ長時間労働をしても,割増賃金は支払われないことになる。そのため,長時間労働への歯止めがなくなって,長時間労働を助長し,常態化させるおそれがある。しかも,一旦法制化された後は,労働者派遣法と同様,対象範囲が拡大されていくおそれがあるうえ,本法案では,除外対象となる業務内容や年収要件の詳細はいずれも厚生労働省令に委ねているため,法改正を経る必要がなく,より一層対象範囲が拡大されかねない。

3. また,本法案は,労働時間の計算を実労働ではなくみなし労働時間によって行うことを認める裁量労働制のうち,企画業務型裁量労働制の対象業務を拡大する内容となっている(本法案に基づく改正労働基準法38条の4)。
 しかし,現状でも,裁量労働制は,みなし労働時間と実労時間が大きく乖離し,労働者が長時間労働に従事する傾向が見られる。裁量労働制の対象を拡大することは,長時間労働を助長し,常態化させるおそれがある。

4. 一方,本法案は,労働者の健康及び福祉を確保するための措置を講ずることを使用者に求めてはいるが,これらの措置がとられなかった場合の罰則がないなど,実効性に大きな疑問がある。
 このように,本法案は,労働者の健康及び福祉を確保するための十分な措置もないままに労働時間規制の除外対象を広げるものである。「過労死等がなく,仕事と生活を調和させ,健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与すること」を目的とした,過労死防止対策推進法が2014年11月1日に施行されたばかりであるにもかかわらず,長時間労働を助長し,過労死・過労自殺や健康悪化をもたらしかねない。

5. 更に,政府は,本年3月13日,「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下「労働者派遣法等改正法案」という。)を国会に提出している。
 この労働者派遣法等改正法案は,昨年3月11日に政府が国会に提出し,廃案となった法案とほぼ同一内容のものである。
 当会は,2014年5月14日付け会長声明において,国会提出された労働者派遣法等を改正する法案は,労働者派遣法が原則とした「常用雇用の代替防止」の考えを実質的に放棄して,派遣先において派遣労働者を永続的に利用することを可能にするものであり,労働者全体の雇用の安定と労働条件を損うものであるとして反対した。この問題点は,今国会に提出された労働者派遣法等改正法案でも異なっていない。
  加えて,派遣労働が拡大したもとで労働時間規制が緩和されれば,正規労働者が非正規労働者に置き換えられる一方,残った正規労働者には長時間労働を求められることになり,いずれの労働者にとっても労働環境が悪化するおそれがある。

6. 以上から,当会は,今国会に提出された「労働基準法等の一部を改正する法律案」及び「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案」に反対する。


2015年6月17日
三重弁護士会
会長 川端 康成