司法試験合格者数の早急なる減員を求める決議(総会決議)

三重弁護士会 >  総会決議・会長声明

2014年05月23日

司法試験合格者数の早急なる減員を求める決議(総会決議)

当会は、政府に対し、国民の権利・自由を実効的に保障すべく、法曹の質を確保する観点から、
司法試験合格者数を早急に年間1000人以下とすることを強く求める。
以下のとおり、決議する。

平成26年5月23日
三重弁護士会

決 議 理 由



1. 国民から求められる法曹像について
 法曹は、三権の一翼たる司法の担い手として、国民の権利・自由を実効的に保障し、社会の隅々に自由と公正を核とする法の光を照らすという極めて重要な社会的使命を国民から託されている。
 かかる社会的使命を託された法曹は、法の支配という公共的価値実現の担い手であるとともに、経済的・社会的弱者を始めとした国民の権利の守り手たりうる「社会生活上の医師」として、高度な専門的法知識はもとより、幅広い教養と豊かな人間性を基礎に、十分な職業倫理を備えていることが強く求められるところである。すなわち、法曹の質を確保することこそが、国民の権利・自由を実効的に保障する上で必要不可欠なことである。
 しかしながら、現在の司法試験合格者数のままでは、法曹の質を確保することが著しく困難となる事態が想定され、ひいては国民の権利・自由を実効的に保障することができなくなる危険性が極めて高いのであり、早急に是正されねばならない。

2. 司法試験合格者数と弁護士数の推移について
 司法試験合格者数は、平成2年までは500人前後であったところ、平成3年からは漸増し続け、平成11年には1000人、平成16年には1500人近くにまで増加し、平成19年以降は2000人超で推移している。これに伴い、弁護士数は、平成3年3月末日時点では1万4000人ほどであったところ、平成16年3月末日時点で2万人を超え、平成23年3月末日時点ではついに3万人を超え、平成26年4月1日現在では3万5000人を超えるに至っている。
 このように弁護士数が急増している一方、裁判官数(簡裁判事を除く)は、平成3年から平成23年に至る20年間で828人の増加、検察官数(副検事 を除く)は、同じく20年間で644人の増加にとどまる。即ち、司法試験合格者数の増加は、弁護士数の急増にのみ直結していることが明白なのである。当会所属の弁護士数も、平成16年から平成26年の10年間で79人から171人へと約2.2倍に激増している。

3. 弁護士数急増による弊害について
 弁護士数が急増したことにより、新人弁護士の一部は、既存の法律事務所へ の就職ができず、やむなく弁護士登録と同時に独立開業(いわゆる「即独」)したり、既存の法律事務所の片隅を間借りして独立採算にて事務所経営(いわゆる「ノキ弁」)したりすることを余儀なくされている。
 このような新人弁護士においては、先輩弁護士から法律事務に関する指導・助言を受けながら実務経験を積み、法曹としての知見を研鑽していく機会(いわゆる「OJT」)を全く得ることができないまま、国民の権利・自由を保障すべき法曹としての実務に携わっていかなければならない。
 法曹養成を担う法科大学院における教育も不十分である中、司法試験合格後の司法研修所による実務教育も1年間に短縮されて、法曹実務教育を十分に果たしていないとの指摘もあり、新人弁護士のOJT不足を補うものとなっていない。かかる状況下において、弁護士登録後においてもOJTの機会を全く得ないこととなれば、法曹としての知見を研鑽する機会が皆無となり、国民の権利・ 自由を実効的に保障することが極めて困難となる危険性が高い。

4. 法曹志望者の減少
 法曹人口急増の弊害は、法曹志願者数にも現れている。 法曹人口の急増に対し、法曹志願者数は減少の一途をたどっており有為な人材が法曹を目指さない状況が生じている。
 当初5610人を数えた法科大学院入学者は、平成23年度3620人、平成24年度3150人、平成25年2698人と毎年大幅に減少している。平成26年度には2272人にまで減少するに至り、全法科大学院の定員に占める入学者の割合は約60%にまで低下し、2年連続で90%以上の法科大学院が定員割れとなっている。
 法曹となるための経済的・時間的負担をかけて法曹資格を得ても就職難であり、就職できても安定した収入が得られないという不安が、有意な人材を法曹から敬遠させる要因となっている。
 有為な人材が法曹を目指さない状況は、より一層、法曹の質の確保を困難なものとしている。

5. 法曹養成制度に関する議論の進捗状況について
 以上のとおり、弁護士急増によって国民が被る弊害の甚大さに鑑みるならば、弁護士数の抑制は、一刻の猶予も許されない喫緊の課題である。
 ところが、平成25年6月に出された法曹養成制度検討会議の取りまとめによると、司法試験年間合格者数を3000人とする過去の閣議決定における数値目標は現実性を欠くとしつつも、全体として法曹人口を引き続き増加させる必要があるとする。これを踏まえて同年9月にスタートした法曹養成制度改革推進会議等における議論は、平成27年3月までに法曹人口調査を取りまとめ、その結果を待ってからさらに議論を重ねようというもので極めて危機意識の欠けたものであり、かかる悠長な対応では遅きに失することが明白である。

6. 自民党による緊急提言について
 弁護士数の抑制、即ち、司法試験合格者数の減員が喫緊の課題であるとの危 機意識の下、平成26年4月9日、自由民主党政務調査会・司法制度調査会・法曹養成制度小委員会合同会議は、「法曹人口・司法試験合格者数に関する緊急提言」を発表し、司法試験合格者数は、「まずは平成28年までに1500人程度を目指すべき」であるとした。
 しかし、1500人程度にしただけでは現状の問題は解消しない。
 すなわち、合格者数1500人を維持した場合、弁護士人口は増え続け、将来は6万人程度にまで拡大することが予想される。現在の弁護士人口約3万5000人でも弁護士が飽和状態にあり、数々の弊害が生じていることを考えると、司法試験合格者を1500人にしたとしても弊害の解消は望めない。
 他方、合格者を1000人とした場合、弁護士人口は緩やかに増加するが、将来4万人程度で安定することになる。
 現在の危機的状況を打破し、新人弁護士が十二分にOJTの機会を得られるようにするためには、司法試験合格者数を早急に1000人以下とする必要がある。
 そして、その実行時期においても、本年度から直ちに実行すべきものであり、遅くとも平成27年度からは1000人以下とすべきである。

7. 結論
 以上、当会は、政府に対し、国民の権利・自由を実効的に保障すべく、法曹の質を確保する観点から、司法試験合格者数を早急に年間1000人以下とすることを強く求めるものである。